下水道事業でIoTを活用して何をする?

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内水氾濫は都市部で発生しやすく、平坦な土地に強い雨が降ると、雨水が排水できずに地面に溜まります。低地では周囲から水が流れ込んできて浸水の規模が大きくなります。 

このような地域において、マンホール(以降MH)内の水位を測定し、IoTを活用してデータ収集を行いリアルタイムで対策を講じる方法をお伝えします。


内水氾濫の現状について



 内水氾濫のパターンとは

内水氾濫は都市部で発生し、二つのパターンに分けることができます。一つ目は短時間強雨による用水路の排水能力が追い付かない「氾濫型の内水氾濫」です。

二つ目は、令和元年に一級河川の逆流でマンションエリアにおいて発生したような「湛水型の内水氾濫」です。湛水型の内水氾濫は、河川の水位が高くなっている場合に発生しやすくなります。

 内水氾濫の発生原因とは

都市部で内水氾濫が起こる原因はいくつか考えられます。

一つに、市街地化の影響で地盤が舗装されたことにより浸透地面が減り、雨水が浸透しにくくなったことが指摘されています。アスファルトは土よりも水の浸透が遅く、地面へ吸収されない雨水が溜まります。そのような地域から低地へ流れ込む雨量が増えたことで、多くの雨水が低い窪地へ流れ込み冠水することとなります。

都市部はヒートアイランド現象の影響で気温上昇や大気が不安定な状態になりやすく、局地的な大雨の規模が大きくなり、内水氾濫が増えています。

 内水氾濫の事例

令和元年、台風19号により神奈川県川崎市および東京都世田谷区二子玉川で浸水被害が発生しました。それぞれの浸水原因は異なっており、川崎市では内水氾濫により浸水被害が発生、そして二子玉川では多摩川の越水により浸水被害が発生しました。

前者は多摩川の水位が高くなり、低地であった武蔵小杉の排水溝で雨水が溢れ、内水氾濫を起こしました。

後者は二子玉川にある二子橋を境に、多摩川の下流側は建設済みの堤防により越水しませんでしたが、上流部は堤防建設が未着手だったために、多摩川と支川である野川の合流地点で多摩川が越水し浸水被害を引き起こしました。これは河川からの外水氾濫であり、前者とは異なります。

 内水氾濫の詳細

内水氾濫として、上述した氾濫型があります。氾濫型のケースには、①降雨量が計画降雨強度より大きく雨水施設の施設能力を超えたケース、②谷のようにくぼんでいる地域で雨水が溜まるケース、③雨水の排水先である河川の水位に問題があり排水できないケース、が上げられます。

令和元年に発生した武蔵小杉の内水氾濫はケース③に該当します。ケース③に該当するものには、③-1下水道の雨水吐出先である河川の水位が上昇して、地域の地盤が低く排水できない場合と③-2河川の水が排水溝を逆流(バックウォーター)する場合があります。

河川への排水口のゲートを閉めていれば、この内水氾濫は防げた可能性はありますが、武蔵小杉は地盤が低く、当時は激しい降雨で排水溝の水位も上がっていたため、バックウォーターを懸念することよりも排水を優先し、市役所はゲートを閉めなかったそうです。


内水氾濫への対策(事前対策)



短時間のゲリラ豪雨による影響で、内水氾濫が年々増加しています。その対策として以下の項目を提案します。

 ハザードマップの作成

洪水(外水氾濫)ハザードマップと内水氾濫ハザードマップの2つを準備します。

 短時間ゲリラ豪雨による内水氾濫への対策(設備の整備)

計画降雨強度を超えた豪雨が短時間に降った場合、リアルタイムでモニタリングできるシミュレーションシステムが必要です。

そのために、IoT(Internet of Things)を活用する方法を提案したいと思います。

  1. 低湿地で内水氾濫が起きそうな地区のMHに水位計を設置すること。
  2. そのMHにLPWAで通信する伝送装置を設置すること。

LPWA(Low Power Wide Area:低消費電力で長距離の通信が可能な無線通信技術の総称)はIoT分野で活用されています。低価格な通信技術であるため、長時間にわたり複数箇所に設置することが可能です。

また、都市部では敷地を確保して、通常時は稼働しないポンプ設備を設置すると多大なコストがかかるため、民間貯留浸透施設の設置を行います。民間貯留浸透施設は下水道事業計画に基づき整備された施設とし、建設費および所得税、法人税、固定資産税の補助および減税があります。

出典元:令和3年度 国土強靱化に資する税制改正事項の概要(内閣官房 国土強靱化推進室)

    雨水貯留浸透施設の設置に対する支援措置のご紹介 (平成27年度版)


内水氾濫リスクの回避方法



 短時間ゲリラ豪雨による内水氾濫への対策(AIを活用したシステムの構築)

河川の洪水が発生した際に、九州地方整備局河川部と連携し中小河川水位予測AIを構築しています。

下水道の内水氾濫に対して、AIを活用した内水氾濫の将来予測を行っている事例は少なく、かつ、IoTを活用してMH内の水位データを収集・活用している例もないと思われます。複数MH内の水位データを解析後、複数箇所の内水氾濫の発生パターンからAIで内水氾濫の予測パターンを解析します。次に、通常時はIoTで複数箇所のMH内の水位データを収集し、リアルタイムでAIによる予測解析を行います。

AIシステムを構築することで、対象地区の内水氾濫リスクが予測された場合、地域の住民に避難指示および危険情報を伝達できます。

出典元:社団法人 九州地方計画協会 AIを活用した洪水予測技術の開発について

 降雨量から内水氾濫を推定(流出解析シミュレーションによる対策)

上述のポンプ設備、民間貯留浸透施設と雨水施設(排水路、ポンプ場)のデータを読み込み、GIS流出解析時にリアルタイムの降雨量をインプットして、流出解析シミュレーションを実施します。

その結果、内水氾濫のリスクが発生しそうな場合は、地域の住民に避難指示および危険情報を伝達できます。


まとめ


 

近年、都市部の短時間ゲリラ豪雨による内水氾濫のリスクは増加傾向にあります。内水氾濫が起きた地域の居住者に被害が発生することを防ぐとともに、ビルや家屋などの施設の被害を防ぐことも必要です。

通常、施設整備(ハード対策)には時間を要しますが、用地取得が不要な民間貯留浸透施設の整備には、国は補助金を出して早期着手を促しています。

コンサルタントの立場から小規模の設備とソフト対策によりリスクを低減化することが最適であると考え、今後も良いアイデアを事業化し提供していきたいと思います。


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この記事のライター
大学で衛生工学研究室に所属しており、卒業後に建設コンサルタント会社に就職し、20年間下水道の設計、計画をしています。
新規計画は減ってきていますが、経営戦略や官民連携、広域化共同化、PFI/PPPなど多くやるべき事があるため、面白いですね。ここではそれらの記事を掲載したいと思います。
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