下水道処理区域を広域化させることの有効性

  • LINE

前の記事   次の記事


下水道事業は汚水・汚泥処理施設の広域化・共同化を行うべき時代が来ました。

都道府県管理の流域下水道に汚水処理区を統合して、単独公共下水道施設、集落排水施設を廃止します。これにより統合する処理区の処理施設を配することで、処理施設の改築更新費用および維持管理に要する人件費を削減できます。

下水道処理区の統廃合を前提として、都道府県がICTを活用した集中管理を検討するのは妥当であると考えます。今回は下水道処理区を広域化(統廃合)させる有効性について記述します。


汚水の広域化について



 ① 汚水処理区の広域化(統廃合)

流域下水道は都道府県が管理し、単独公共下水道は単独の市町村が管理しています。しかし、近年、人口減少に伴う使用料減収が大きな要因となり、職員数減少による執行体制の脆弱化や既設の管路施設(管きょ、マンホールポンプ(以下MP))およびその他施設(処理場、ポンプ場)の数多の更新期の到来などが副要因となり、広域化・共同化が必要な状況が発生しています。

市町村をまたぎ、広域的な観点からの調整が重要となることから、都道府県が主体となり、市町村と連携し、広域化・共同化計画を策定することとなりました。


 ② 下水道だけでない統廃合のメリット

下水道区域の広域化だけでなく、集落排水区域、およびし尿処理区域を連携させ、統廃合を検討します。

農業集落排水は対象区域の管きょと下水道管きょを接続させて統合させます。しかし、し尿処理区域のし尿を下水道で受け入れる場合、受入槽が必要であり、し尿処理場で対応することで、下水管きょで受け入れ可能となります。

表に示す水質が下水道で受け入れることができる水質です。


し尿処理場等に受入槽(希釈槽)を設置し、し尿等を下水道排除基準に適合させるためには、20~30 倍の希釈水(地下水を用いることが多い。)が必要となります。し尿等を下水道管きょへ投入する場合の下水道側の条件としては、自治体が下水道条例に定める排除基準を順守する必要があり、表に示すような項目と数値になっています。

出典元:下水道法施工令 第9条の5(e-Gov法令検索)


 ③ 監視システムの集中化から広域化への変遷


下水道処理場の管理はICTを活用して、遠隔地より複数の処理場を集中監視することで適切な人員配置が可能となります。これは初期の対応であり、中長期では可能なブロックにおいて複数の単独公共下水道処理区、集落排水区域などを流域下水道処理区等(単独公共下水道の大規模処理区)に統廃合(管きょを接続させて、処理区を統合する)後、終末処理場で一括して汚水を処理します。

処理場の処理区域を広域化(統廃合)して、民間企業への施設管理を委託する処理場数を減少させればコストを抑えることができます。

出典元:広域化・共同化の推進 国土交通省 水管理・国土保全局(令和元年9月)


 ④ 下水道管理の事務作業


下水道では多くの施設(管きょ、MP、ポンプ場、処理場)を管理しています。

管きょ管理には管きょとポンプ場の巡回点検、清掃や住民からの苦情対応等、幅広い対応が求められるため、多くの市町村が外部委託しています。MPの日常点検では機械電気設備の専門性が必要となるため、外部委託しており、専門職不足、緊急時対応等における迅速性、施設老朽化が問題とされています。管きょ調査も専門性が必要で、多くの市町村が外部委託しており、職員不足、事務作業の増大、予算不足に陥っています。

処理場管理については包括委託もしくは個別委託しており、専門職不足、技術継承が課題となっています。処理場の維持管理(事務作業)業務は共同化によって、民間企業へ共同発注することによりコストが減少し、民間企業の業務効率化および最新の情報管理が可能となります。

 出典元:下水道事業における広域化・共同化の事例集 国土交通省 水管理・国土保全局(令和4年4月)


広域化のメリット


 

まず、将来の人口減少を踏まえて、以下のコストの算出が必要です。

  • 下水道使用料(百万円/年)および下水道使用料単価(円/㎥):収入
  • 事業費(建設および改築更新)(百万年/年):支出
  • 施設管理費用(百万円/年):支出
  • 維持管理費用(百万円/年):支出

収支計算で支出が多い場合、事業費を減少させるために、ストックマネジメント(SM)計画を策定し改築更新費用の減少、ICT活用による集中管理で維持管理費用の減少、広域化により施設管理費の減少の3点を実行することが重要です。

維持管理費とは施設の定常管理をする人件費のことで、ICTを活用し集中監理すれば減少可能であり、広域化が確定、実施後は統合により運転しない施設の維持管理費と施設管理費がゼロとなり、メリットとなります。


まとめ



下水道事業を安定的に経営していくには様々な手法が必要となりますが、収支を黒字化させることが一番の目標となります。都市部であれば、下水道使用料の収入を安定させることもできますが、そうでない市町村の場合、市町村単位での対策では収入を安定させることは難しいでしょう。

今回記載した「広域化を活用した処理場管理」の目標については、初期はICTを活用して複数処理施設を共同監視すれば、維持管理コストや処理場管理人件費を低減できる他、中枢処理場に水質試験室を設け、共同化によって省スペース化も図れます。

処理場の管理にあたり、複数の処理場を一括で広域化することは困難ですので、対象区域の複数の処理場でICTを活用して、共同監視を実施します。そして、次のステップとして中枢処理場以外の処理場を順番に広域化していき、接続管路も並行して建設します。し尿処理場区域を下水道と連携することで、既定の施設を活用して広域化を図れます。また、し尿処理場では受入貯留および脱水処理によって希釈水倍率を下げ、下水道へ放流することが可能になります。


下水道」に関する製品・工法をお探しの場合はこちら

※本文内にある一部のキーワードをクリックすると、該当する製品・技術情報にアクセスできます。

 匠の野帳の更新が受け取れる『サガシバ』メルマガ 

月2回の配信を行っています。

匠の野帳の更新情報以外にも、人気の製品や相談など情報満載!

ご登録はこちら

この記事のライター
大学で衛生工学研究室に所属しており、卒業後に建設コンサルタント会社に就職し、20年間下水道の設計、計画をしています。
新規計画は減ってきていますが、経営戦略や官民連携、広域化共同化、PFI/PPPなど多くやるべき事があるため、面白いですね。ここではそれらの記事を掲載したいと思います。
『サガシバ』に会員登録して、匠の野帳をもっと便利に!
会員登録すると、最新記事の情報が受け取れる他、便利な使い方がたくさん!

nicoさんの匠の野帳をもっと見る

2023年11月08日 02:26 nicoさん
1 0
防災計画は国、都道府県、市町村それぞれで策定していますが、市町村にはそのエリアの居住者がいるため、彼らが被災者にならずに避難させることを目標とした防災対策を講じています。自助、共助及び公助がかみあって...
1 0
2023年10月11日 04:42 nicoさん
2 0
防災計画には国レベルの総合的かつ長期的な計画である防災基本計画と、地方レベルの都道府県及び市町村の地域防災計画があり、それぞれのレベルで防災活動を実施してきました。しかし、自助、共助及び公助がうまくか...
2 0
2023年06月07日 01:29 nicoさん
1 0
流域治水は気象変動により水災害の激甚化・頻発化を踏まえ、堤防の整備などの対策の一層の加速を図る必要があります。そして、集水域(雨水が河川に流入するエリア)から氾濫域(河川の外水氾濫、内水氾濫により浸水...
1 0
2023年02月08日 00:00 nicoさん
2 0
内水氾濫は都市部で発生しやすく、平坦な土地に強い雨が降ると、雨水が排水できずに地面に溜まります。低地では周囲から水が流れ込んできて浸水の規模が大きくなります。 このような地域において、マンホール(以降M...
2 0
2023年01月25日 00:55 nicoさん
3 0
下水道事業では様々な施設を広域化(集約化)・共同化することが可能ですが、そのためには単一の市町村ではなく、都道府県単位の広いエリアを対象として、広域化・共同化を検討する傾向があります。処理場などのハー...
3 0
2022年11月29日 22:00 nicoさん
1 0
汚泥処理施設の老朽化による施設更新が増加する中で、施設の集約化は持続的な事業運営を行うために有効な手法の一つとされています。汚泥処理を単独の処理地域ではなく、都道府県単位の広いエリアを対象として、集約...
1 0
2022年11月09日 01:00 nicoさん
2 0
下水道事業の集中管理を行うべき時代が来ました。下水道職員が減少しており、下水道処理場管理に必要な業務を分担できるためICT(情報通信技術)を活用することが注目されています。処理場管理において問題点が発生...
2 0
2022年10月26日 00:55 nicoさん
2 1
下水道事業を行う自治体は事業運営にあたって、当初計画と現状において、社会情勢の変化に直面しており、経営状況がいいとは言い切れない状況と考えます。その理由はいくつかあり、下水道事業を効率的に継続していく...
2 1
2022年09月28日 00:54 nicoさん
5 2
官庁が管理する施設で経営を改善すべき施設はPFIを利用して、民間の経営上のノウハウを活用しています。これは下水道に限った事ではありませんが、下水道事業で建設された施設として、管路施設、ポンプ施設、終末処...
5 2
2022年08月31日 01:00 nicoさん
4 2
内水氾濫と外水氾濫河川の氾濫には、都市に降った雨が河川に排出できず発生する「内水氾濫」と河川が溢れて発生する「外水氾濫」(洪水氾濫)の2種類があります。今回は内水氾濫のハザードマップの重要性について意...
4 2
会員登録(無料)