ICTを活用した下水道事業の集中管理

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下水道事業の集中管理を行うべき時代が来ました。

下水道職員が減少しており、下水道処理場管理に必要な業務を分担できるためICT(情報通信技術)を活用することが注目されています。

処理場管理において問題点が発生した際はその場で判断するのでなく、中枢処理場へICTを活用して連絡し、リスクを回避します。また、定常運転するための維持管理、中長期的な改築更新を検討する施設管理が必要です。

ICTは経営資源の見える化を図るための有効なツールとして位置づけられています。処理場管理においてはICTを活用することで客観的、定量的な情報に基づき、リスク管理、維持管理、施設管理をひとつの自治体で賄うのではなく、集中管理すれば適切な人員配置が可能となることを皆さんに知っていただきたく、本テーマを選定しました。


管理運営にあたり下水道事業の現状と課題



下水道使用料だけでは汚水分の維持管理費を賄えず、不足分については一般会計繰入金に依存している状況であり、今後の人口減少による減収、下水道施設の老朽化を踏まえ適切な維持管理を実施するための経費増加など、多くの課題を抱えています。

下水道職員の減少は防ぐことができないため、少人数で下水道業務を担当しなくてはなりません。処理場については、人口5 万人未満の中小市町村を除くと、処理水量10,000m3/日当たりの維持管理職員数は、概ね2~3 人というのが実態です。

出典元:国土交通省水管理・国土保全局水道部 持続的かつ質の高い下水道事業の展開に向けたICT活用ビジョン(平成26年3月)


ICT導入の留意点およびボトルネック


 

 ICT導入の留意点

ICT導入は最終的なゴールではなく、絶えず有効に活用できるように更新および新規の施設建設があれば、拡張が必要です。それらを踏まえ、当初はスモールスタートとして、段階的に機能を拡張するイメージで検討すべきです。

また、ICTに頼り切りになるのではなく、施設のメンテナンスなど人的管理を適性に行うことを前提にして、施設の改築更新データの更新が必要不可欠です。

セキュリティや遠隔地でのデータバックアップなどの対策も重要になります。 

 ICT導入のボトルネック

 ①検討着手段階のボトルネック

  • 維持管理職員が問題発生時にICTを用いるという着想に至らない。
  • 技術の革新が速く、最新技術情報の入手が困難である。
  • ICTを理解し、導入を進めるスタッフがいない。

検討着手時に上記3点をクリアするため、民間のアドバイザーより情報共有を受け、自治体職員の育成を行うことが重要です。

 ②検討実施段階のボトルネック

  • ICT採用の経験に乏しく、導入に必要な手続きや留意事項が想定できない。
  • 導入したいICTがあっても、現状の業務プロセスと馴染まない。
  • 導入判断するための技術的知見が乏しい。

検討実施時に上記3点をクリアするため、今後、事例を検討する自治体へ発信および資料の提供を行うことが重要です。


ICT導入にあたって


 ICT普及促進プラットフォームの構築

国は自治体や企業等の先駆的な取り組みを行うための場の提供など、支援の取り組みを行っています。特にICT導入の初期段階には、これを積極的に支援することが重要であり、具体的な取り組みとして下水道ICT普及促進プラットフォームの構築を図ることとしました。

出典元:国土交通省水管理・国土保全局下水道部 下水道におけるICT活用に関する検討会報告書 第6章6.1(3)


 ICT活用のメリット

政府発表の「経済財政運営と改革の基本方針」では、センサー、AI診断、IoT技術、ビッグデータ分析など、あらゆる技術を活用するためのテクノロジーマップを整備し、実装を加速させる、と記載されています。

出典元:経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ 別紙 第2章1(5)


ICT運用方法について


 ICT活用による集中管理

ICTを活用した処理場等の集中監視・遠隔操作はまさに該当項目であり、遠隔地でのバックアップのみならず、適切な集中監視・遠隔操作することで水処理・汚泥処理・汚泥のエネルギー化など様々な項目でビックデータ分析が可能です。

しかし、すべての処理場でこれらを活用できる人員を配置するには高コストがかかります。広大なエリアをカバーする場合、複数の処理場が必要となりますが、ICT活用により適切な人員配置が可能となります。

 ICT活用による共同化

指示するスタッフを中枢処理場に配置し、ICTを活用して施設を共同監視します。

各施設に維持管理職員を配置すれば、適切な処理場施設の運用が可能となります。

下に示す図のように中核処理場の水質管理室を共同で利用し、周辺町村と光回線で結び遠隔監視体制を築きます。中核処理場に巡回点検スタッフを配置し、定期的な巡回保守点検を実施します。

出典元:下水道事業における広域化・共同化の事例集【概要版】(令和4年4月)23ページ



まとめ



我が国の下水道事業は厳しい財政状況の下、維持管理の重要度の増大、下水道資源・エネルギーの利用促進、浸水や地震・津波への備え、少子化問題やベテラン職員の大量退職による人材不足・技術継承への対応といった多岐にわたる課題に直面しています。

そのため、既設下水道施設の現状を把握し、適切な維持管理および改築更新を効率的に実施し、かつコストを縮減する必要があります。

ICTを活用して複数処理施設を共同監視することで、維持管理コストや処理場管理人件費を低減できる他、水質試験室を共同化することで省スペース化も図れます。

短期的にはこれらがメリットではありますが、長期的にICT活用で処理場の集中管理を行うことで、次のことが習慣化されます。

  • ICT企業から最新情報資料、技術開発動向、導入実績など様々な情報を収集すること。
  • 自治体・共同管理協議会との情報共有により、施設の改築更新時に必要な設備に関する最新情報を得ること。

その結果、その地域の流入水質、流入水量に対して、必要な施設の概略を指示できるようになります。

地域の情報を改築更新のためにゼロから収集するよりも、ICT活用により複数施設の情報を集中管理することで、必要な情報を適切に管理できればメリットがあります。


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この記事のライター
大学で衛生工学研究室に所属しており、卒業後に建設コンサルタント会社に就職し、20年間下水道の設計、計画をしています。
新規計画は減ってきていますが、経営戦略や官民連携、広域化共同化、PFI/PPPなど多くやるべき事があるため、面白いですね。ここではそれらの記事を掲載したいと思います。
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