行き過ぎた残業が引き起こす過労死が話題となってから、ようやく政府が重たい腰をあげて月間80時間以上の残業をレッドゾーンとしたのは記憶に新しいことです。そこまで行かなくとも、朝早くから夜遅くまで働かざるを得ない現場代理人であれば、毎日2時間の残業を20日すれば、すぐに40時間の残業になってしまいます。ちょっとした書類作成で忙しくなって残業や休日出勤してしまうと、たちまち80時間残業になってしまうのは周知の事実でしょう。
「納期=工期」と期限が決められているので、仕事を請け負った以上、残業してまで間に合わせなくてはいけないのですが。
「残業禁止!ただし、納期は延びません。」
仕事人間としては、どうにかして納期は守らなければいけません。文庫本の帯に書かれているなんともショッキングなコピーに脅えてしまいます。
今回紹介する小説「残業禁止」荒木源著(角川文庫)は、建設会社に勤務する現場監督の所長が主人公です。本社の労務管理から「残業禁止」の命令を受けたことから始まる悪戦苦闘の末に、巨大ホテルを完成させる物語です。“建築現場で日頃どんなことが行われているのか”とても良く分かる小説になっています。大手ゼネコンやサブコンに就職希望の方にお勧め小説ですね。
「残業禁止」の著者は、荒木源(あらき げん 1964年生まれ 京都府出身)。
東京大学文学部仏文科を卒業。朝日新聞社に入社し記者となり、1996年に同社を退社後は、作家に専念し2003年に「骨の中」で作家デビューをはたしました。主な著書に「探検隊の栄光」(小学館)「オケ老人!」(小学館)「ちょんまげぷりん」(小学館)があります。
作品は映画化され「ちょんまげぷりん」(2010年錦戸亮主演)「探検隊の栄光」(2015年 藤原竜也主演)「オケ老人!」(2016年 杏主演)となっています。
横浜の15階建てホテルの建築現場を取り仕切る所長・成瀬和正(46才)のもとに、本社より残業時間上限規制の命令が来ます。
ただし、納期は延びません。
現場所長に無理難題を言って、まるで討ち死に(過労死)しなさいと言わんばかりの内容に頭を抱える成瀬所長。
「過労で倒れる所長の右腕」「絶対残業しないイクメン社員」「発注者からの突然の仕様変更」「理不尽な要求をする近隣クレーマー」と次々と押し寄せる難関。仕事が出来ない上に、現場で自殺未遂を起こした社員の責任を取らされて関連事業部へ左遷させられる成瀬。代わりにやってきた加藤所長は、残業時間をなぜか厳守しているらしい?そんな時に、クレーンのブームが折れる大事故が発生し、成瀬に再び現場復帰のチャンスが巡ってきました。はたして、成瀬は残業時間を厳守した上で工事を完成させられるのか・・・!?
ヤマジュウ建設
成瀬和正 | 現場所長 |
浅田しのぶ | 現場監督 クレーンの事故原因を知っている。 |
熊川健太 | イクメンパパ。保育園へ子供を迎えに行くため残業はしない。 |
砂場良智 | 新人の教育係 |
太田 | 過労で入院 |
高塚 | 使えない新人社員 |
加藤 | 成瀬の後の所長 |
成瀬香澄 | 成瀬の妻 元ヤマジュウ社員 |
一人の監督が現場と書類作成を請け負っているから時間が足りなくなるのは当たり前。現場と書類作成を分担すれば、残業しなくても工期まで間に合うということですね。仕事が忙しくて「身体が二つあったら」と思うことはありませんか。成瀬所長はそこに気が付くのでしょうか、、。まぁ読者が安心するようなハッピーエンドになることはお約束出来るでしょう。
時間がなければ人海戦術でしょう。現実的には、20~30人規模の小さな建設会社では出来そうもない話なので、私個人としては残念なオチでした。
業界の意識も最近ではかなり変わってきているので、これから先は残業も休日出勤もどんどん減ってゆくと私は期待しています。