今回ご紹介するのは、道路改良工事での失敗談です。朝夕の交通量の多い既設道路の拡幅計画に伴い、古くなった水路の代わりにプレキャストボックスを据え付けるという工事で、道路の線形・高さを変えていく準備ともいえる3,000万円程度の工事現場でした。入社して最初の頃、転職組だった私は、解体工事や草刈りの現場ばかりでした。設計図面に描かれているものを作っていく工事は初めてでしたし、レベルやトランシットを実際に現場で使うことも新鮮でした。工事部長が担当するこの道路改良工事の現場で、私は監督業の勉強も兼ねて変更図面や役所との折衝を任されていました。
40代とおぼしき役所の担当者は名刺交換の後、腰を下ろすやいなや、こう切り出したのです。
担当者「〇〇建設さん、この工事はちょっと分が悪いですよ。」
施工計画書を作成する前の役所担当者への受注後の挨拶、いわゆる「顔合わせ」は最悪の雰囲気の中で始まりました。
私「分が悪いとは…?」
担当者「まず、このガードレールは仮設工事ですから、土中建込の必要はないです。この間知ブロックも次の工事で施工したほうが良いので、今回は大型土のうでやりましょう。」
設計図面に手書きで2重線が引かれ、数百万円の工事が一瞬で消えてしまいました。私は(分が悪いのではなくて、悪くしてるんじゃないか…)と心の中で叫びましたが、初対面の担当者にそんなことを言えるわけもなく、監督と二人、何とも言えない空気の中、役所を後にしました。
「明日から、測量するぞ。」と監督が帰りの車内でつぶやきました。
まだ、図面もしっかり把握できていないまま、現場に乗り込むというのです。監督は焦っていたのかもしれません。
ばたばたと着工前測量を済ませ、受注後2週間という異例の早さで施工計画書・測量成果簿等を提出し、工事に着手しました。土中建込の代わりの仮設ガードレールは自社の置き場と役所の置き場からかき集めました。
「リース料金と、運搬費を計上しましょうか…?あと既設との接続部分も流末は設計に無いから変更で上げられそうですよ。」
私は、とにかく変更・変更で少しでも役所からお金を引き出そうと思っていました。しかし、監督は施工日数のことしか頭にないようで、
「時間がかからないならいいけど…。それより、ゴムキャタの0.7は手配したの?」
と気持ちのこもっていない返答ばかりです。
毎日、大変な作業が続き、疲れることで焦りや閉塞感をごまかしているような、まるでうまくいかなくなった夫婦のような不毛な会話が夕方の現場事務所で続いていました。
道路に沿って数十メートルのボックスカルバートを設置する作業が終わり、いよいよ既設道路の7m下を横断する工程に差し掛かりました。当初の設計では段切りを行い、直高7mの掘削を安全な勾配でオープンカットすることになっていました。しかし、搬出土量がかなり多くなること、また左右に線形を振って通行を維持する第1期・第2期仮設道路の安全性の観点から、協議の末、H鋼を打ち込み、鋼板で土留をするという変更が決まっていました。
私が作成した土留の図面を受け取ると、監督は心配そうにこうつぶやきました。
「H鋼と石積み暗渠の距離が近くないか?雑石の厚みも考えて計画してあるの?」
私が監督に雑石が不揃いだった場合も考慮したと伝えると、監督はしかめっ面のまま、ポケコンで座標計算を始めました。
翌日、私は久しぶりにヘルメットをかぶって現場に出て、H鋼打ち込み位置の測量の手伝いをしました。H鋼を打ち込む時の倒れや土中障害があった場合も考えて、測量で出した法線を30cmほど逃がすことになりましたが、私的には(やけに慎重だな…)というくらいの気持ちでした。実際、5本目を打ち込むまでは、順調だったと思います。
最後の5本目もあと5mで終わりという時、いきなり下請け会社の職長がクレーンのオペレーターにストップの合図を送りました。ユニットに駆け寄り、バイブロの振動を止め、オペレーターに何か確認した後、小走りで監督と私のところへ来てこう伝えました。
「入りにくくなった後、急にスッと抜けました。とりあえず一度上げます。」
穴を覗き込んだ私たちは、暗渠の入り口から差し込む光によって、最悪の結果を確認しました。石積み暗渠をバイブロハンマーで破壊してしまったのです。状況を自分の目で見ようと暗渠の入り口に向かった私は、下請けの職長の必死の制止によって思い留まることができました。
「石が崩れて死んでも、責任をとれません。行かないでください。」
次回は、今回ご紹介した失敗の原因と対策についてお伝えします。
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