四つ葉のクローバーをくれる左官さん

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「真ん中で折れとるぞ。」

「…えっ?どこで?」

現場に着くなり、左官さんがそんなことを言い出すので、僕は慌てた。この工事は、元々積んであった2段積みのブロックをかさ上げすることで、駐車場の外回りの高さをかせいで水勾配をとらなければいけない。この工事でまず取り掛かる大切な作業だ。

先月、土地の所有者が会社を訪ねてきた後、見積もりのための測量を数回行った。その時はかさ上げの土台になるブロックの法線が折れていることにまったく気が付かなかった。

「どのあたりが…?」

左官さんが指さすところをブロックの端から見通すと、確かに折れているような、そうでもないような感じである。

「糸を張ってみましょうか?」

すると、ピンと張った糸とブロックの間に隙間が2㎜~3㎜ほど現れた。

「下から積み直すのか?」

左官さんの問いに僕は首を振った。

「いや、このままかさ上げしましょう。折れている部分は、路床になるから見えなくなる。」

お金と時間の話はしないことにした。幸い内側に折れているから、越境という問題はないのだし、差し筋と横の鉄筋で強度もとれる。

「じゃ、朝礼をしましょう。工程の説明をします。集まってください。」

「やっぱり、目が違うのかな~?」

「目というより目の付け所じゃないですか。」

午前中の作業が終わり、コンビニに向かって運転しながら僕がつぶやくと、助手席の若手が答えた。

「この前測量に来た時は、高さと面積だけ丁寧にあたりましたよね~。通りがまっすぐかなんて誰も気にしなかったじゃないですか。角々をトランシットで見て、もらった図面と見比べるだけで…」

その時、僕は四つ葉のクローバーの話をしたかったのだが、確かに彼の言う通りなのかもしれないと思い、切り出せなかった。

朝一番にブロックが折れていることに気が付いた左官さんは、よく僕に四つ葉のクローバーをくれる。

去年、田舎の河川工事に通ったころ、毎週のように四つ葉のクローバーを左官さんがくれるので、「どこかたくさん茂っているところがあるんですかね?」と尋ねたこともあった。

僕のレベルブックで押し花のように挟まったいくつかの四つ葉のクローバーを「あげましょうか?」と差し出したが、彼は笑って断った。その時、僕は左官さんが四つ葉のクローバーを特別好きなわけじゃないことを知り、もしかしたら目の訓練のために四つ葉のクローバー探しをしているのではないかと勘ぐった。

しかし、目がよいとか、視力がよいとか、きっとそんなことはどうでもよいことなのだろう。まず、まっすぐであるはずのものを「まっすぐかどうか?」自分の目で見る。ものを見るときの心構えが違うのだろう。目を凝らして、草むらの中で四つ葉のクローバーを探しているのではないのだ。クローバーの茂みの中の違和感を感じ取ろうと、茂み全体を眺めているのかもしれない。

僕はそんな気がしてならない。


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この記事のライター
鹿児島県生まれ。大学では地域研究を専攻。
塾講師・海運業(離島航路)を経て、地元の土木会社に勤務。公共工事、民間工事の主任技術者、職長として現場で汗を流しながら、事務所では見積り、積算もやっております。
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