現場には乗り合わせで行く。特に建設現場は駐車スペースが限られていたり、まったく無かったりするからだ。
「今日は、Y君とTさんは僕のダブルピックに乗ってください。」
「乗れるの?」
Y君が笑いながらこっちを向いた。
「昨日、片づけたし、ゴミも捨てた。」
「ゴミはコンビニに捨てれば良いのに」
「だめでしょ。会社のコンプライアンスが・・というより、人として・・」
朝から小言とか聞きたくないだろうし、言いたくもない。
僕はTさんを探しに車庫に車で向かった。車庫の入り口に立っていたTさんは弁当の入った袋とヘルメット、水筒を抱えて後部座席に陣取った。助手席に乗り込んできたY君はヘルメットと手袋だけ握りしめている。そろそろ出発しなきゃいけない。今日の現場は朝礼とラジオ体操がある。
「コンビニ寄る?」
Tさんは後部座席でラップに包んだおにぎりを袋から出して食べながら、Y君に尋ねている。
「もちのろん」
時々Y君は昭和親父みたいな返答をする。
「どこでもいいでしょ?」
朝のコンビニは外仕事の車が多い。僕は比較的駐車場の広いコンビニを選んだ。朝はレジもトイレも駐車場も混んでいる。
「毎日、朝飯代もらってくるの?」
助手席でホットコーヒーを手にしているY君に尋ねた。
「毎日コンビニで朝飯買っていたら、けっこう高くつくでしょ。」
僕ぐらいの世代からすると、コンビニは定価でペットボトルを売っている店、たばこを買う店というイメージなのだ。ドラッグストアに88円で売っているカップ麺の定価をコンビニで初めて知るイメージなのだ。
「クーポンとかキャンペーンとかありますよ。ポイントも貯まるし。」
Y君はクーポンでゲットしたおにぎりを見せてくれた。
「俺が10代のころは、コンビニはなかったからな。」
Y君からもらったビニール袋に丸めたラップを投げ込むと、Tさんは煙草に火を点けようとしている。Tさんは若いころ関西で働いていた。関西では寮で朝飯がまわったし、寮で食べなくても列に並んでおかずをトレーにとる「ごはんや」が朝から何軒も開いていたらしい。
いつの間にか僕ら土木作業員の朝時間にコンビニが入り込んできた。ぎりぎりまで寝て、ばたばた出勤しても大丈夫になった。二日酔いのドリンクも昼の弁当も手に入る。朝ご飯とトイレは家で済ませてから出勤する僕も時々コンビニを利用している。元気が欲しい時に錠剤や栄養ドリンクを買う。その主な有効成分がカフェインだと聞いたこともあるけれど、気持ちのリセットのために元気の素を買う。Tさんがほおばる手作りの愛情おにぎりと同じ元気の源を僕はコンビニで探す。レジに並んでいる知らない作業員の後ろ姿を見ていると、昔からの仲間のような感覚になることもある。Y君がコンビニで貰っているのもきっとポイントだけじゃないはずだ…。