土木作業員の日常~整地~

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『整地』

土木関係の人ならよく耳にする言葉である。

広さにもよるがすべてを同じ高さにすることはあまりなく、水勾配を考慮しながら平らな面を重機のみ、人力のみ、もしくは協力し合って作りあげる。丁張杭や鉄筋棒にマーキングして丁寧に作る時は舗装の下地になる路床や構造物の基礎の下地で「不陸整正」「床掘出来形」と黒板の文字も堅苦しい。

しかし、僕には乱れた地盤をその日の作業の終わりに整えるちょっとした「整地」のほうがずっと難しい。

「なーんも難しいことないよ。高いところを削って低いところを埋めるだけでしょ。」

上目使いのままベテランオペレーターの□□さんはにやけている。ちょっとだけだからと請け合うとユンボから降りたときに、自分のしでかした「不陸整正」のあまりの不甲斐なさに愕然としてしまう。

「あー5時過ぎてる。□□さん、帰っちゃってるし・・・。」

土木会社に転職してきたころ、□□さんから別会社にいる彼の師匠との飲みに誘われた。「俺の師匠」と紹介された60才くらいのおじさんは穏やかで寡黙だった。

「□□さんはどうしてあんなにうまくユンボを扱えるのですか?」

男子中学生のような問いかけにも「師匠」はふっと笑うだけで何も答えなかった。

「砂場遊びをしたことあるだろ?掘ったり山にしたりばらまいたり・・あのときの手の動きをそのままユンボでやるだけだよ。」

□□さんが代わりに答えてくれたが、師匠はそうだとも、そうでないとも言わず、焼酎のお湯割りをすすっている。

「師匠は□□さんに何も教えていないのだ。」

帰り道、僕はぼんやりそんなことを考えていた。上手い「重機乗り」には偏屈が多いと聞いたことがある。しかし□□さんが若手とそりが合わないのは偏屈者だからじゃないのだろう。彼は誰からも重機の操作方法を手取り足取り教わったことがないのかもしれない。

「知らねえし・・」

「言われてないし」

そんな言葉で言い訳する若手とはうまくいくはずないのか。「整地」で大切なのはユンボの足元と運転席から見える誤差と・・・そんな細かな内容を手取り足取りってわけにはいかないし、僕の「不陸」の課題もそのあたりだろうし。

「××君、重機のセンスあるんじゃないかな。教えてあげればうまくなるかも・・」

□□さんは聞いているのかいないのか。

「僕にも整地の仕方を教えてくださいよ。」

「・・・・・」

ICTは電源が失われると全く無力になるが、ベテランオペレーターの「腕前」は彼の体力気力が続く限り失われないだろう。中小の土木会社があり続ける限り「腕前」は生産性を左右する。当面の僕の宿題は「整地」と「技術継承」ということになるのかな。

この記事のライター
鹿児島県生まれ。大学では地域研究を専攻。
塾講師・海運業(離島航路)を経て、地元の土木会社に勤務。公共工事、民間工事の主任技術者、職長として現場で汗を流しながら、事務所では見積り、積算もやっております。
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