土木作業員の日常~丁張~

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天気が何とか持ちそうなので、今日の作業は工程表通り「プレキャスト側溝の据付」ということになった。道路改修工事は、昨日据え終わったばかりの新しい側溝の終点から、今日の予定地点までの既設の古い側溝を撤去するところから始まった。


熟練のユンボオペレーターのKさんは、砕石や泥のこびりついた古いガサガサの側溝たちを、器用なバケットさばきで横付けしたダンプに次々と放り込んでいく。そこには昭和の土側溝のような溝ができ、レベルの横で待っていた僕の出番がきた。

高さの基準点から昨日の精度を確認したら、数メートルおきに木杭を立てる。昭和の土側溝の上の空間に水糸を張るのだ。これが新設の側溝の通りと高さの目安になる。そのために木杭は土側溝の両脇に2本セットで立てる必要があるし、門型にするための横木も必要だ。


今回は天気が心配だったので、欲張らずに施工延長は15ḿ、「丁張」の木杭は5ḿおきだから、昨日の終点も合わせて4か所ということになる。

計算機片手にレベルを覗き、それぞれの木杭に高さをだしていく。

「かたっぽだけでいいやろ…」

左官も上手なTさんはせっかちだ。木杭の片方に高さをだして、それを水平器でもう一方に移したいらしい。

「まだダンプが帰ってこないから2本とも高さを見るよ。」

この後Tさんには敷モルタルという大切な仕事がある。頭ごなしに「だめ」と言うのはよそう。計算が2倍になるから手間がかかるのだが、計算間違いを防ぐために僕はあえて2本分計算機をたたく。高さを出した2本の釘の上に取り付けた横木が水平なら、レベルの読みや引き算を間違えている可能性は低い。

「最初のやつが12せん2りん、次が15せんちょうど イチゴーゼロ…」

横木を打ち付けて門型の丁張ができあがった。

糸を張る前にレベルブックの数字を見ながら一つ一つ釘の高さをチェックする。待ちきれないTさんは土側溝の底に敷いた基礎砕石を均し始めた。

「一ミリ二ミリを言うなよ…」

スケールで一つ一つ確認していく僕にTさんが言った。

先ほど僕は箱尺を乗せた釘から下12㎝2㎜のところに赤鉛筆でしるしをして、高さの釘を打てと要求した。精密な仕事をしているようだが、マーキング用シャープペンの赤芯は2㎜だし、そこに打つ長さ45mmの釘も直径2.5mmくらいある。ミリ単位で測量して2㎜以上誤差をだせる道具で丁張を組み立てるのだ。

一見矛盾しているようだが、

  • マーキングをレ点にすること
  • 丸い釘の上の面がマーキングの中心になるように打込むこと
  • 釘を打つときに体のどこかを木杭に当てて木杭がぶれないようにすること

これでかなり正確な水糸を張ることは可能だと思っているし、Tさんもそうしている。

「いやいやバッチリですよ」

笑顔で返しながら僕は不思議だった。

(Tさんの敷モルタルの仕事はもっと繊細なのに…。)

水糸を張って丁張は出来上がった。

「勾配を見るときは低いほうから見ろよ…」

Tさんの教えは守ろう。「一ミリ二ミリ」にもこだわろう。

腰をかがめて下流側から見通すと、昨日据えたばかりの新しい側溝から続く、流れるようなピンクのラインが空中に見えた。

丁張がうまくいったとき眺めるこの景色が僕は大好きだ。


この記事のライター
鹿児島県生まれ。大学では地域研究を専攻。
塾講師・海運業(離島航路)を経て、地元の土木会社に勤務。公共工事、民間工事の主任技術者、職長として現場で汗を流しながら、事務所では見積り、積算もやっております。
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