「グリーンインフラ」という言葉をご存じでしょうか?自然が持つ機能を活用して様々な社会課題を解決する考え方のことで、建設業界では少し前から話題となっている用語です。今回は、グリーンインフラの意味や具体的な導入事例などについてご紹介します。
グリーンインフラとは、グリーンインフラストラクチャー(Green Infrastructure)の略語で、「自然環境が有する機能を社会における様々な課題解決に活用しようとする考え方」(国土交通省HP)のことです。
自然環境には、存在しているだけで防風、気温上昇抑制、延焼防止、景観向上など挙げればキリがないほどの機能があります。人間が利用することで、子供の健全な育成効果、心身の健康維持、コミュニティ活動推進など、より複合的な効果が得られます。緑が持つこのような機能を活用して、インフラを整備しようという考え方がグリーンインフラです。
コンクリート構造物などのグレーインフラと対照的に使用されることも多いですが、周辺環境や条件によって双方を適切に組み合わせるのが最も効果的とされています。
グリーンインフラには様々な学説や考え方があるため、明確な定義はありませんが、既に整備済みの都市公園や街路樹など自然を活用した社会資本の多くはグリーンインフラに該当すると考えられます。「グリーンインフラ」と聞くとあまり耳馴染みのない言葉のように感じますが、実際はすでに我々の日常生活に溶け込んでいるのです。
海外では90年代からグリーンインフラの概念を導入している一方で、日本では国土交通省が2015年頃から政策や計画にグリーンインフラに関する方針や考え方などを定めています。
名前が似た用語として「グリーントランスフォーメーション」があります。グリーントランスフォーメーションとは、政府が定めたカーボンニュートラル目標(2050年までに温室効果ガスの排出量を0にする)を実現するための取り組みのことで、主には企業が主体となって使用するエネルギーを化石燃料から再生可能エネルギーへ転換することにより、経済社会システムを変革することを指します。温室効果ガスの排出削減と産業競争力の両立を目指す点が特徴的です。
また、意味が似た用語としてEco-DRRがあります。Eco-DRRは「①生態系により危険な自然現象を軽減し社会の脆弱性を低減することと②自然状態の土地利用を維持することを通じて自然現象に曝されることを回避することにより、自然災害リスクを下げること」(内閣府HP)です。海岸林による津波被害の軽減やサンゴ礁による高潮被害の軽減などが事例として挙げられます。グリーンインフラと比べてより生態系を重視しています。
土木設計分野におけるグリーンインフラの導入事例として代表的なのは、雨水流出抑制機能を持つ施設です。例えば、雨水を浸透して貯留しておく機能を持つ土壌基盤や舗装の整備などです。短時間で多量の雨が降った時、側溝や河川が溢れ、最悪の場合堤防が決壊することがありますが、雨水を浸透させ貯める機能を持つグリーンインフラを各地に導入することでこのような水害が減らせるほか、真夏には浸透した水が蒸発することにより周辺の空気を冷やす効果を発揮します。
他の事例として、海岸堤防に盛土・植生を配置する「緑の防潮堤」による津波の勢い軽減・避難時間の延長や河川・海岸に生物の生息空間を創出することによる自然環境改善や観光資源創出、地域コミュニティの活性化などが挙げられます。
私が建設コンサルタントで公園の設計をしていた際にも、グリーンインフラを導入した経験があります。当時導入したのは、雨水を浸透・貯留する機能を持つ植栽基盤と水を透過させる機能を持つ透水性舗装で、メインとなる大きな通りに設置しました。
雨水を浸透・貯留する機能を持つ植栽基盤は、他の一般的な植栽基盤よりも高額でしたが、発注者がグリーンインフラに肯定的であったことや比較的大きい公園で重要性が高かったことにより、提案を受け入れてもらうことができました。
土木工事に適用可能で、雨水の浸透・貯留や生物の生息空間創出などハード面の効果を最大限引き出すための製品開発には、多くの費用がかかるようです。
平均気温の上昇や異常気象の頻発などにより、環境問題が取り沙汰される昨今で、グリーンインフラは環境保護に向けた突破口となり得ます。
自然や緑地には、省エネ効果や気温低減効果のほか、リラックス効果や景観向上効果など人々の生活の質を上げる心理的効果、地価上昇や地域の文化・歴史との融合による観光資源化などの経済効果など多くの機能があるため、複雑な社会課題にもアプローチできる無限の可能性を秘めています。
費用面では高額となる場合も多いですが、持続可能な社会の実現に向けた貴重な手段でもあるため、設計をする際にはグリーンインフラの導入を検討してみてください。