インクルーシブ(inclusive)は、英語で「包括的な」、「~を含めた」などの意味があります。近年では、主に教育や福祉などの分野で利用されていますが、設計分野でもインクルーシブの考え方を取り入れることが増えてきています。
そこで、今回はインクルーシブの意味やインクルーシブの考えを導入した公園設計の体験談をご紹介します。
インクルーシブとは、「包括的な」、「包み込む」といった意味を持つ英単語ですが、現代の日本社会では、「性別や国籍、障害の有無などの個々の属性に関わらず誰もが共に生活していく」という意味合いを含んで使われています。最近は、インクルーシブの名詞形であるインクルージョンもよく見かけます。2006年12月の国連総会で採択された障害者の権利に関する条約でインクルーシブ教育が示されてから、日本でも2010年に文部科学省によってインクルーシブ教育の方針が示されました。現在では、「インクルーシブ教育」のほかに「インクルーシブデザイン」や「インクルーシブビジネス」などといった言葉が使われており、「インクルーシブ」は様々な分野で浸透してきています。設計の分野でも、障害のある人も健康な人も多種多様な人々が皆当たり前のように遊んだり、学んだり、生活ができるようにする仕組みやデザインとしてインクルーシブデザインが取り入れられるようになってきています。
インクルーシブデザインと意味が似た用語として、ユニバーサルデザインがあります。多種多様な人々が広く利用できることを目的としている点は同じですが、その目的に対するアプローチ方法が異なります。
インクルーシブデザインは、障害がある人や通常利用が困難な人の意見を取り入れてデザインしていくなど、想定利用者から排除されてしまう人をなくすところからアプローチしていきますが、ユニバーサルデザインは7つの原則(※)と照らし合わせながら、デザインしていきます。
インクルーシブデザインは明確なルールが存在しないため、より多角的な視点から自由な発想でデザインを進めることができます。
※原則
土木設計の分野におけるインクルーシブの導入事例として代表的なのは、インクルーシブ遊具を公園に設置する事例です。
インクルーシブ遊具とは、性別や年齢、言語、能力などに関わらず全員が利用できる遊具のことです。車いすから容易に乗り移れる複合遊具や五感をフルに使って遊べる遊具などがあります。インクルーシブ遊具に明確な規定などはないため、様々な特性や障害を考慮して、一般的には複数のインクルーシブ遊具を設置して「インクルーシブな広場」として整備する場合が多いです。
私が建設コンサルタントとして公園の設計をしていた際にも、発注者に「インクルーシブな公園にしたい」という意見をいただいたことがあります。当時は、インクルーシブという言葉を知りませんでしたが、インターネットでどういった設計事例があるのかを調べたり、メーカーにヒアリングしたりした結果、以下の2点を工夫しました。
公園内に整備するストレッチや運動をするための広場に、車いすで利用でき、親子で一緒に利用できる健康遊具を3基設置しました。その他に、若者と高齢者を対象とした健康遊具をそれぞれ3基設置し、全世代が障害の有無に関わらず利用できるインクルーシブな広場となるように設計しました。
公園内に水路を設置し、親水広場を設計したのですが、園路から水路までは高低差がありました。そこで、車いすの人でも近づけるようにスロープを設置しました。
当時は比較的新しい考え方を導入して時代に沿った設計ができたという達成感が大きかったことを覚えています。
現代では、多様性が尊重されており、属性の違いを「認め合う」だけでなく、「活かしあう」社会が実現される日も近いのではないでしょうか。
インクルーシブという概念は、近いうちに社会に浸透して当たり前に使われる言葉になっていくと思われるため、設計をする際はもちろん、普段の生活を送る中でもインクルーシブ、インクルージョンを意識して過ごしてみてください。