グラデーション思考

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掘削は、軟弱な地盤・硬質な地盤・狭隘な施工ヤードなど、厳しい制約条件があると難易度が高く見えがちですが、実は課題が明確な現場は難しくありません。本当に難易度が高い現場とは、軟弱な地盤かつ狭隘な施工ヤードで、さらに空頭制限も受けるなど、多くの制約条件が輻輳しているからです。一方で、ミス事例集などでは、「なぜそんな容易なことに気がつかなかったのか」と技術以前の感性を疑いたくなる事例も散見されます。これらは、多様な自然を工学的イチゼロで分析した結果、露呈したミスも多いのではないでしょうか。

今回は、ありがちな掘削ミス事例を紹介するとともに、白黒思考になりがちな土木工学にグラデーション思考を提案します。


ありがちな掘削ミスの事例



 その1:オープン掘削で地下水が湧き出した事例

・現場の状況

透水係数が大きな砂礫層が分布していたが、柱状図の孔内水位が掘削底面よりも低かったため、湧水の問題がないと判断してオープン掘削を計画した。オープン掘削(法面勾配1:0.5)を開始して間もなく、想定よりも浅い地盤から大量の地下水が湧きだし、法面が安定しなかった。施工ヤードが狭く、法面勾配を緩くすることもできずに、現場作業を中止した。

・実施した対策

民家が近接するため、騒音振動に配慮して高価な油圧圧入工法として、鋼矢板を用いた土留め掘削に変更した。工事費の増額のみならず、設計と材料手配の期間も要したため工期が大幅に遅延した。

・再発防止

雨期と乾期によって地下水位は変動する場合があります。孔内水位と地下水位が異なることを認識して、孔内水位は地下水位を知る手がかりの一つと考えるべきです。また、地質報告書の透水係数から湧水量を推定することも可能ですが、「他の地質調査位置と比べて砂礫層の分布にバラツキはないか。」もしくは、コア写真をみて、「どれくらいの範囲から湧水が出そうなのか。」など、コアを感じる必要があったのではないでしょうか。


 その2:土留め工法で地盤が不安定な状態になった事例

・現場の状況

地下水位が高い地盤であったため、土留め工法として鋼矢板を計画した。掘削下面付近まで施工した時点で、局部的に掘削底面が膨れ上がり地盤が不安定な状態となった。

・実施した対策

原因は、掘削下面以深の被圧地下水による不透水層の盤ぶくれであった。全体的な地盤崩壊には至らなかったため、被圧帯水層と考えられる不透水層以深の不透水層まで鋼矢板の根入れを長くすることで、被圧水圧を遮断した。

・再発防止

地質調査では、被圧帯水層を確認できない場合が多いことを認識するべきです。地下水位が高く、鋼矢板の根入れ範囲に粘性土の不透水層が一様に分布する場合は、被圧帯水層である可能性を考察する必要があります。

粘性土を粘着力だけで判断しがちですが、やはりコア写真をしっかりみて、どの程度の不透水層なのかを確認することをお勧めします。


まとめ


土木設計とは、仮説に基づく自然へのある意味“企み”と考えることができます。そのしくじりは、多くの場合が水で証明されます。計画時点で、脳内で仮想現場を観るには、経験と創造が必要です。与えられた柱状図の記事とコア写真のほか、周辺の地質調査結果や環境(田畑、河川、井戸など)を踏まえて、地盤と水位を面的に推測する必要があります。与条件が少ない場合は、その地域の他工事の施工実績が参考になります。それでも、地盤の特性はグラデーションに曖昧です。チョット自信がない時は、「オープン掘削の勾配を現場判断で緩やかに調整出来る施工ヤードがあるか。」「万一、リスクが露呈した時にも、容易に現場対応できそうか」など、イチゼロではなくグラデーションに企むことも必要だと考えています。

この記事のライター
土木設計の知的な生産活動に魅力を感じていましたが、コロナ禍で自身の視野の狭さを痛感しました。土木技術者としての思考を社会と共有することで、設計だけでは得られない知性を得たいと考えています。できる限り、文理の枠を超えた多面的なリベラルアーツで専門性を俯瞰し、設計の本質を投稿していきます。21世紀を1/5消費した今こそ、国土の創世期が来たとワクワクしています。
好きな土木家(建築家):安藤忠雄、隈研吾
好きな土木絵(美術家):モネ、ユトリロ
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