掘削のすゝめ

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「地球を食べる」でも、お伝えしたとおり、全ての新設構造物に欠かせない基本的な作業が「掘削」です。使用する重機は、バックホウを用いた施工が一般的ですが、掘削範囲が狭く深い場合は、クラムシェルなどを用いることもあります。掘削は、土を掘るだけの単純な作業ですが、計画するには土の地質年代・形成過程・堆積方法などの過去の生い立ちを踏まえた高度な工学的思考を要します。



地質調査



地質の性状や強度を把握するために、地質調査を行います。地質調査とは、周辺の地形図・地質図・空中写真などの資料から推測することから始まりますが、最も有力な方法は、地中を目視できるボーリングです。ボーリング調査によって、地上からは見えない「蟻の巣の断面」を見るように、地質横断図で地層を可視化します。さらに、標準貫入試験・孔内水平載荷試験・粒度試験・圧縮試験などによって、地層を工学的に分類・評価します。


掘削工法



掘削には「オープン掘削」「土留め掘削があります。地質調査結果に基づいて、経済性・施工性・安全性・周辺への影響・確実性などの課題を天秤に掛けて最適な掘削工法を選定します。


 (1)オープン掘削

構造物の周辺に斜面を設けて地盤の崩壊を防ぐ工法です。安価な工法ですが、掘削影響範囲が広いため、狭隘な施工ヤードでは採用できません。また、山岳の急斜面においては、大規模な掘削になる場合もあるので、留意が必要です。設計基準では、砂質土や粘性土の標準的な掘削勾配として、

  • 掘削深度5m未満=1:0.5(小段無し)
  • 掘削深度5m以上=1:0.6(小段有り)

を採用する場合が多いのですが、現場では標準的な掘削勾配で斜面が崩壊している場合も多くあります。


 (2)土留め掘削

土留め形式には、親杭横矢板・鋼矢板・グラウンドアンカーなどがあります。土留め壁を鉛直に設置することで、掘削影響範囲を最小限に留めることが出来ます。土木工学の基礎となる三力(構造力学・水理学・土質力学)を駆使して、地盤の変位を抑制します。地中深くに鋼材を貫入するため、三力以外にも鋼材貫入の可否・重機の配置・近接構造物への影響なども踏まえて、最適な土留め形式とバイブロハンマー・油圧圧入・ウォータージェット・クラッシュパイラーなどの最適な施工計画を立案します。


 (3)「オープン掘削」と「土留め掘削」の長所と短所

オープン掘削は安価な方法ですが、短所として広い施工ヤードを必要とすること、斜面崩壊のリスクがあることが挙げられます。また、しっかりと固結した地盤であっても、豪雨時に崩壊しない保証はありません。よって、斜面崩壊リスクの観点からは、土留め掘削が望ましいのですが、土留掘削を採用するには、オープン掘削では出来ない根拠が求められます。すなわち、どこまでがオープン掘削でどこからが土留め掘削なのかを設計者が判断し、発注者の理解を得る必要がありますが、その判断は数値では与えられません。


まとめ



「掘削」は、土を掘るだけの単純な作業ですが、最短で2万年以上も熟成されてきた地質をはたして工学的思考だけで理解できるでしょうか。

例えば、同じワイナリーでも、グレートヴィンテージと言われる美味しいワインの当たり年があるのはなぜでしょうか。長期熟成されるゴーダチーズのような発酵食品は、完全に均一な品質でしょうか。土壌微生物がもたらす効果は、農作物だけでしょうか。四季折々の変化は、風景だけでしょうか。壮大な熟成期間を経た地質を、数式で一意に定めた評価だけでは、現場の多様性が見えないと私は考えています。つまり、地盤定数が同じ値であれば、全く同じ地盤と考えてしまうことに危うさがあるということです。

全く同じヒトがいないように、全く同じ地盤はありません。設計者の判断を土との対話と考え、土地の周辺環境・風土・地の利を感じるとともに、コア写真を観察することで、理性だけでなく感性も駆使して野生的に感じるものがあると思います。

次回は、その掘削のミス事例について詳しくご紹介していきたいと思います。

この記事のライター
土木設計の知的な生産活動に魅力を感じていましたが、コロナ禍で自身の視野の狭さを痛感しました。土木技術者としての思考を社会と共有することで、設計だけでは得られない知性を得たいと考えています。できる限り、文理の枠を超えた多面的なリベラルアーツで専門性を俯瞰し、設計の本質を投稿していきます。21世紀を1/5消費した今こそ、国土の創世期が来たとワクワクしています。
好きな土木家(建築家):安藤忠雄、隈研吾
好きな土木絵(美術家):モネ、ユトリロ
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