建コン協会『若手の会』の前代表が語る、過去と現在、そして未来について

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『サガシバ』編集部 [著/編] / 伊藤 昌明(株式会社オリエンタルコンサルタンツ) [監修]



会社間の垣根を越えて若手が中心となり、業界内外に大きな風を起こしている建コン協会『若手の会』。

2021年度からはこれまで代表を務めていた、株式会社オリエンタルコンサルタンツの伊藤 昌明 氏が退任し、新代表である株式会社長大の青柳竜二 氏の下、新たな活動をスタートさせています。

そこで今回は『若手の会』の過渡期である今、前代表である伊藤 昌明 氏にこれまでの話や現在の心境について、インタビューを行いました。



■建コン『若手の会』の現在



――現在は全国で何支部ぐらい展開されていらっしゃるのでしょうか。


伊藤氏建コン協会の全支部で『若手の会』は立ち上がっており、本部を入れて10支部 です。すべての支部が出来るのに2年ぐらい掛かったと思います。東北地方や中国地方が1年ぐらいの間に立ち上がり、その後一気に他の支部につながっていきました。同じ時期に、経団連や国交省から若手の意見を大事にしようと若手組織が次々に立ち上がったり、大企業の若手・中堅社員を中心としたコミュティが生まれたりしていたので、ちょうど時代の流れと機運が合ったのではないでしょうか。今では全国約2000人のネットワークに我々のアクションを届けられるくらいに成長していますね。


――本部はどのような立ち位置なのでしょうか。


伊藤氏本部『若手の会』には、基本的に各支部から1名入ってもらっています。ただ、各支部の活動にはほとんど関与していません。本部がガバナンスを利かして、あれこれ指示すると、メンバーの主体性も損なわれるし、なによりモチベーションが下がってしまう。これでは、何のために活動しているのか、わからなくなる。それはしたくなかったですね。年に一回、代表者が交流して情報共有ができる場を作っているので、定期的に交流できるようにはなっている。


■アウトプットへのこだわり



――『若手の会』は業界を問わず、様々な企業ともコラボしていますよね。それらの経験が今活きていると感じるのはどんな部分でしょうか。


伊藤氏まずは、メンバー同士で共通の価値観や言語のようなものが生まれたことですね。「働き方改革ひとつとっても残業時間削減だけが目的じゃないよね」とか「テレワークはいかに働き方を多様化するのか」とか。

あとは、活動を通して得た学びを所属企業に持ち帰って、実際の変革アクションに繋げていることが大きな成果です。学ぶだけではなく、具体的に自分の会社で実装する流れが生まれているんです。たとえば私個人で言うと、現在所属している株式会社エイテックで、働き方改革として服装を自由化したり健康経営の取り組みをしたり生産性向上に繋がる研修をしたりしています。それらは『若手の会』で学んだことやコネクションをフル活用させてもらって、導入に至ったものです。他にもそうした取り組みを実践しているメンバーがたくさんいます。活動の中で縁があったサイボウズ株式会社と一緒にチームワークの醸成に取り組んでいる人や、『kintone(キントーン)』というツールを実務に活かしている人がいます。

やはり何のために学ぶかというと、実装するためであって、ただ学ぶだけでは意味がない。アウトプットとして「実装する」点に拘りたいですよね。


――そうした成果は最初から意図したものだったのでしょうか。


伊藤氏当初は意図していませんでした(笑)。今思えば一つ一つの活動が線で繋がっていますよね。途中でそのことに気が付いて、「我々の活動はこんなストーリーです」と言えるようになりました。

設立当時は、みんな「何をやっていいのか」分からない中でスタートしていて、必ずしも周りから認められた状態で活動していたわけではありませんでした。なので、どういう方向に行けばいいのか悩むこともありましたが、当初は何事も「まずやってみる」、つまりアジャイルの精神で突き進んでいましたね。持ち込み企画があればどんどんやりました。それから振り返りをして、「こういう行動って大事だよね」「僕たちの価値観に合っているよね」といった学びがあれば、それを内省して次のステップに繋げていく。

そして、いくつかの活動が上手くいって、さらにそれらのいくつかが各々の会社で展開され始めたという流れです。


■組織の「歴史」を作るということ



――企業の中で当てはめると、新規事業と似ていますね。


伊藤氏そうですね。イベントが終わるごとに「この活動をした目的や意味はなんだろう」とか「活動全体でどんなストーリー付けが出来るだろうか」といったことは考えていました。そうすると、企画書を通すときに考えるような上っ面のロジックやストーリーだけでは語れない意味付けがたくさんあることに気付きます。この作業がないと、「これやって良かったよね」という単発のアクションにしかなりません。次のアクションに対して「何故やるのか」を語れませんし、そうなるとメンバーのモチベーションも上がらない。


――普段の業務だと、1つ1つの仕事の区切りに対して振り返ることはあると思いますが、それらを繋げて考える機会はなかなか無いですよね。


伊藤氏結局、『若手の会』の“歴史”を作っているのであって、それを時間軸で見ると面白いですよね。組織ではなく、個人の話に置き換えて考えても同じことが言えます。社会人になると、内省の時間、例えば自分のキャリアやプロジェクトを一気通貫で振り返る時間はなかなか無いですよね。ですが、やっぱりどこかでやらないといけないと思っています。そうした振り返りができているとキャリアの意味付けもできるし、充実感も生まれるし、「次は何をしようか」というモチベーションにもなります。おかげで、『若手の会』立ち上げからの6年間は人生の中の一部に『若手の会』があるぐらい没頭しました。自分がやりたいことを自分で決めて、自分でアクション出来るって面白いですよね。なので、苦労したという印象はなかったですね。


■退任について



――『若手の会』の活動で実績も多く残されてきたと思うのですが、今回代表の立場を退くに至った経緯をお伺いしたいです。


伊藤氏委員会としての任期は2年単位で、2期で計4年務めたタイミングで、代表を変えようという話になりました。40代前半で若手という年齢でもないし、長く同じ代表が居続けることが『若手の会』にとって本当に良いことかどうか不安がありました。そこで一区切りかと思い、当時のメンバーに対して代表を交代することを持ちかけました。ですが、それまで様々な活動を私主導でやっていたこともあり、同じようなアグレッシブな活動は現業の仕事との兼ね合いでできないと言われ、当時は代表交代は流れました。

そして、3期6年が経過したタイミングで、交代を再度持ちかけました。今回は、代表交代とあわせてメンバーの刷新も図ることとしました。私自身も、『若手の会』の活動で大きく成長しましたが、さらに次の成長環境に身を置くことが大事だと考え、その思いも伝えましたね。


――今後『若手の会』にはこうなってほしい、といった要望はありますか。


伊藤氏ハッキリ言って無いですね。代表と副代表の選出ですごく悩んで、その上で私がなってほしいと思った体制になったので、彼らの行動の結果がどうなろうとも、私の中では納得できると思っていますので。

『若手の会』の設立当時からのミッションは「業界活性化の一大ムーブメントを起こしていくこと」でしたが、普遍的なミッションだって変わってよいのであって、それは新しい代表や副代表が考えていくべきことです。もちろん、変えるにあたっては理由が絶対あるはずです。それは6年間一緒に経験してきた共通の価値観よりもさらに大切なものなのだと思うので。

『若手の会』の本当の意義は現時点ではなく、5年後、10年後にメンバーたちが業界内である程度発言権を持てる立場になったときにこそ、真の意義をそれぞれのメンバーが感じ取るのだろうと思っています。だからこそ、そのネットワークを断ち切るようなことだけはしてほしくないかな。


――では、『若手の会』でやり残したことは無さそうですね。


伊藤氏いえ、まだまだやりたいことだらけですよ。(笑)。やり切った感じも実はそんなにないし。

ただ一方で、私個人としては、そうしたやり残したことを『若手の会』でやることが、今の自分にとって本当にプラスになるのかを考える段階に入ってきていて、何をやりたいのか見つめ直す良いタイミングだと思っています。社会人になって20年目の区切りのキャリアを迎えている。職業人生が40年あるとすると、ほぼ中間点。残りがあと20年もあるのは衝撃的ですよね。次はなにをやろうかなと(笑)

振り返ると、社会人になって10年目に社会人コースで大学院に通って、それがきっかけで技術部門から本社部門へ異動し、かつ社外活動として『若手の会』を立ち上げ活動してきました。ここ数年は様々なアウトプットが中心でしたから、これからの何年かはもう少し落ち着いてインプットに時間を費やしたい気持ちもあります。今後、自分が新規事業や会社経営に携わっていく中で、経営に関する素養や学問は学んできてないので、学び直しは必要かなと思っています。残りの20年間、今のままの価値観で通用するとは思えません。私自身、周りの人に新しい影響や価値観、選択肢を提供していきたいという思いが強い人間ということもあり、まずは自分自身が常に成長できる環境に身を置くことが非常に大事だと思いますね。その結果、『若手の会』や会社に還元できることもあるでしょうし。


――本日は貴重なお話をありがとうございました。




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伊藤 昌明(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)

建設コンサルタンツ協会 「若手の会」前代表。10~20年後に建コン業界を魅力的な業界にするために、若手にも業界の未来を語る場所が必要だと考え、「若手の会」を設立し、企業の括りを超えた活動を展開。「若手の会」が、リクルート「Good Action Award 2017」を受賞。

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