設計成果物の品質確認について(前編)

  • LINE

前の記事   次の記事


設計成果物の品質確保は、各業務の大前提で重要です。品質を確保する一般的な方法は確立されておらず、各設計者がそれぞれ考えながら確認するのが実情です。3件の地下構造物の詳細設計を担当した経験者として、設計成果物の品質を確保する上でのポイントを伝えます。


1. 設計成果物の品質


 1.1 設計成果物とは

設計成果物とは、設計概要書、設計計算書、設計図、数量計算書などになります。長きに渡る設計協議の集大成で、完成した時の達成感は忘れられないものです。

設計協議で協議した相手は、主に発注者ですが、その他に現場、埋設企業、近隣住民などが挙げられます。そのすべてを調整した設計者は、設計成果物を介して関係者の思いを伝達し、間違いのない検討結果を残すことが求められます。

設計成果物は設計計算をとりまとめたものではなく、検討結果の経緯を残した図書になります。



 1.2 設計成果物の品質とは

品質とは、顧客からの品物やサービスに対する要求事項や、ニーズに合っているかを決める特性です。ただ設計検討に間違いのない設計成果物では、品質としては不十分となる場合があります。設計成果物を読めば、検討するに至った経緯、構造物の仕様を決定するに至った経緯など、設計者と同様の理解度が求められます。

設計成果物の品質とは、以下の2つになります。

  • 設計検討に間違いがない。
  • 設計検討の経緯、結果の経緯が明確で説明性の高い設計がなされている。


 1.3 説明性の高い設計

説明性の高い設計を目指せば、設計成果物の品質を確保することができます。RC断面照査を実施して鉄筋の仕様を決定する検討を例として挙げます。

例えば、どの荷重の組合せのケースで、なぜその照査位置で構造物の仕様が決定しているのか説明できるようにすることが重要です。もう少し具体的に説明すると、「ボックスカルバート右側壁の基部に発生する曲げモーメントが最大になる荷重の組合せは、右からの偏圧が最大になる組合せ〇〇で、その時の応力照査の結果で、鉄筋径○○@○○が必要になります。」といった説明が、すべての部材に対してできることが重要です。

第三者が納得できる現地条件に合わせた結果の説明をなされている設計が、説明性の高い設計になります。



2. 品質の確認方法


 2.1 入力の確認

設計計算に入力している値に間違いがないか確認する作業は、「設計検討に間違いのない成果物」としての品質を確保することに対して重要な作業になります。

以下の2つを遵守すれば、間違いはほぼ0にすることができます。間違いによる手戻りの作業が上流側であればあるほど、修正に必要な時間と労力は大きくなります。上流側の作業確認は、時間を惜しまずしっかりと確認しましょう。

  • 最終決定した設計条件書に記載されている値の根拠を最後まで辿る。
  • 人が手入力するプロセスごとにダブルチェックを行う。



 2.2 出力の確認

設計計算の出力値を確認する作業は、「説明性の高い設計」としての品質を確保することに対して重要な作業になります。

入力の確認は業務経験が浅くても、やるべきことがわかりやすく対応できます。それに対して出力の確認は、ある程度実務経験がないと、どのように確認すればいいのかわからないものです。以下にポイントを3つ示します。

  • 手計算でできるような簡易モデルの計算と結果の傾向が大きく変わらないか確認する。
  • 既往の検討結果から変更したスパン長や荷重値などから推定する結果と大きく変わらないか確認する。
  • 構造物の仕様が決定しているケースが妥当であるか確認する。

私は1、2年目の時に、指導を受けましたが、出力の確認の重要性に気づくことができませんでした。自分自身が、説明者となったときにこの作業の重要性に気づくことができます。



 2.3 図面の確認

設計図は設計成果物の中で、最も重要な成果物になります。その理由は、設計図は工事の契約書となるからです。設計計算書と設計図に不整合があった場合は、設計図が優先されて工事が進められます。設計計算結果との整合を確認するのはもちろんですが、加えて以下の3つのポイントを抑えると品質が向上します。

  • 実物を頭の中で組み立てて、実際に施工ができるかどうか確認する。
  • 特殊部の設計思想を統一化できているか確認する。
  • 設計図に施工者に伝えるべき注意事項を示せているか確認する。


3. まとめ



今回は設計成果物の品質とその確認方法を伝えました。私は実務経験を通して、上記の事柄の重要性を徐々に理解しました。上司や発注者に成果物の報告をするときに、上手くいかない時は上記のどれかが抜けていることが多いです。

抽象的な内容ではありますが、皆様の助けになることを祈っております。


 建設コンサルタント業務の協力会社が見つかるサービス!

\バナーをクリック!/ 登録無料で今すぐ使えます。ぜひご利用ください。

【この記事を読んでいるあなたへ】

※本文内にある一部のキーワードをクリックすると、該当する製品・技術情報にアクセスできます。


 匠の野帳の更新が受け取れる『サガシバ』メルマガ 

月2回の配信を行っています。

匠の野帳の更新情報以外にも、人気の製品や相談など情報満載!

ご登録はこちら

この記事のライター
大手建設会社に10年程度勤めております。
施工管理 3年半 設計業務 7年の実務経験があります。
専門分野は都市工種で、地下構造物の詳細設計、仮設構造物の詳細設計、近接影響検討が主になります。資格は技術士-建設部門(土質基礎)、コンクリート主任技士、1級土木施工管理技士を持っています。
土木構造物は一品生産が基本となります。現地条件に合わせた唯一無二の課題解決は、難しく面白いと感じています。私の経験が少しでも皆様の役に立てればと思っております。
『サガシバ』に会員登録して、匠の野帳をもっと便利に!
会員登録すると、最新記事の情報が受け取れる他、便利な使い方がたくさん!

土木の守り神 なまずんさんの匠の野帳をもっと見る

2024年01月10日 09:43 土木の守り神 なまず...
1 0
1. 施工方法および施工機械1.1 施工方法による制限構造物を設計するにあたって、部材仕様を決定する以外に実際に施工できるかどうか判断する必要があります。詳細な施工方法を理解する必要はありませんが、施工の...
1 0
2023年12月20日 10:10 土木の守り神 なまず...
1 1
1. 設計者として理解すべき事項設計者は、予測解析で出てきた応答値と許容値の比較で、製品の性能を決定します。最終的に現場で施工するためには、製品とその施工方法を選定する必要があります。その選定には現地条...
1 1
2023年03月29日 00:00 土木の守り神 なまず...
0 0
先日、「設計成果物の品質確認について(前編)」では設計成果物の品質確保の確認方法についてお伝えしました。長い年月(数年程度)におよぶ詳細設計業務では、確認方法のノウハウがわかっていても集中力を切らして...
0 0
2023年02月01日 00:00 土木の守り神 なまず...
5 1
1. 協力会社への依頼 1.1 依頼する検討項目の選定建設プロジェクトにおける設計業務では多くの検討項目があります。主に「設計条件の整理」、「設計検討」、「設計成果物の作成」に分かれます。一般的には依頼者...
5 1
会員登録(無料)