設計ミスは、構造物の不備にとどまらず、二次災害を引き起こす恐れもあります。設計ミスを防ぐために、建設コンサルタントとして、何に気をつけ、どのような対策を講じていくべきなのでしょうか。
国土交通省が取りまとめた「設計成果の不具合の分類とその発生原因」によると、不具合が発生した設計業務の案件のうち、おおよそ半数近くは、「不注意による単純ミス」であることが判明しました。
設計には高度な技術力を要することが少なくないため、技術的な判断ミス、技術力不足によるミスよりも、単純ミスが上回っているのは、驚きを禁じえません。
また、単純ミスの内容に着目すると、最も多かったのは「図面作成のミス」であり、これに続く「設計計算のミス」や「数量計算のミス」を、件数として大きく上回っています。
この「図面作成の単純ミス」の最も大きな要因は、「データ入力等の作業時の不注意・確認不足」となっており、「不十分な照査体制」、「設計者内部の情報伝達不足」と続き、それらの割合は、「基準類の理解不足」や「現地確認不足」など、技術的な要因より圧倒的に多い結果となっています。
「設計ミス」を防止するためには、これらの傾向をしっかりと頭に入れておくことが必要です。
ここで、私が過去に犯してしまった、設計ミスの事例をお伝えします。
当時、3件の受託業務を並行して進めており、時間的に非常にタイトな状況でした。3件のうち一つが、消波ブロックの制作据付の設計業務でしたが、既にブロックの規格や据付工法の選定が完了し、あとは発注用の図面と数量計算書を取りまとめるだけでした。
残り2件の業務が、設計条件や安定計算の検討において、発注者との調整が山場を迎えていたこともあり、私の頭の中で、図面作成や数量計算は片隅に追いやってしまっていました。
その結果、消波ブロック数の過大計上が、後になって判明したのです。まだブロック製作工事が始まる前であったため、発注者や施工者に実損を与えずに済んだものの、多くの方々にご迷惑をかけてしまいました。
私が数量を過大に計上していた原因は、堤防端部における単純な計算ミスでした。正直、難しい計算でもなく、照査をしっかりと行えば、防ぐことができるものでした。
この事例での私の最大の過ちは、計算ミスそのものよりも、「簡単なプロセスだから、確認も簡易に済ませていい」という、慢心、油断でした。
単純な計算ミスであっても、クライアントに与える影響は、技術的に判断が難しい中でのミスと等しく、決して軽微ではありません。
だからこそ、どんな過程でも慢心や油断を排除することが、建設コンサルタントとして大切な資質であると、痛感した次第です。
私の事例からもお分かりの通り、設計ミスの半数を占める「単純ミス」は、技術力不足や理解不足が原因ではありません。ずばり「不注意」に尽きます。人間ですから、ヒューマンエラーを完全にゼロにすることは困難です。しかしながら、「単純エラー」を限りなくゼロにする努力は、絶えず自他ともに問い続ける必要があります。
ここで、単純ミスを防止する具体的な方策として、2つのアプローチをお伝えします。
一つは、各自が「自己照査」能力を高めることです。慣れている作業、難易度の低い作業こそ、細心の注意を払い、慢心を戒めることが大切です。油断を排した心を保った上で、資料を見直したり、計算過程を再トレースしたりすることで、多くの「うっかりミス」を防ぐことができるものです。
もう一つは、複数人による「相互照査」です。経験豊かな人であっても、時には「間違った思い込み」を持ったまま、作業を進めてしまうことが起こり得ます。「思い込み」自体を本人が気づくのは難しいため、他の誰かが確認するという体制が、どうしても必要なのです。岡目八目というように、自分の間違いは気づけなくても、他人のミスは容易に見つけられるものなのです。
自動車事故は、初めて走る道路ではなく、通り慣れている道路で起こりやすいと言われています。慣れからくる「不注意」や「慢心」こそ、事故の要因になってしまうのです。
建設コンサルタントも、多くの知見を学び続ける向上心とともに、既に習得した技能を間違いなく発揮させる注意力が不可欠です。
「神は細部に宿る」と言います、設計ミスのせいで、これまで築いてきた信頼関係が一瞬で崩れることがないよう、「まあいいだろう」の気持ちを排し、「今一度確かめよう」の心がけを決して忘れず、共々に歩んでいきましょう。