実は、会計検査には、発注者だけでなく、設計コンサルタントにとっても、陥りやすい大きな落とし穴があります。
そもそも会計検査とは、公共団体等が国の補助金や交付金を活用して発注する工事や業務について、国会に属さず内閣からも独立した機関である会計検査院が、不適切な設計や積算、施工がないか検査するものです。
国や地方公共団体等の公共団体にとって、およそ年に1回受ける会計検査は、頭を悩ませ、大きなプレッシャーのかかる、「一大事」イベントです。
なぜならば、万が一不適切だと指摘された場合、その度合いにもよりますが、国費返還、さらには国会報告にまで及ぶ可能性があり、大きな責任と代償を払うことになるからです。
そのため、会計検査の受検前の時期には、発注者側から多くの質疑や確認が来ることが多く、検査そのものに同席させられる例も珍しくありません。
一方、土木工事やその設計業務で、会計検査院から不当として指摘されるのは、「不適切に過大な予定金額」と、「強度不足など所要の安全性が確保されていない工事成果物」の2つが、大半を占めています。そしてその要因は、積算ミスに次いで、設計ミスが多い状況です。
つまり、会計検査を無事に乗り切ることは、発注者だけの問題ではなく、設計者である設計コンサルタントにとっても、「一大事」なのです。
毎年実施されている会計検査での指摘事項は、意外にも、何度も同じポイントであるケースが少なくありません。例えば、鋼構造物による港湾施設については、電気防食と被覆防食との組合せ方や、各々の施工範囲等について、不適切な事例が繰り返し指摘されています。
たびたび指摘を受けるということは、発注者、設計者ともに、会計検査の過去の事例の把握が足りていないと言わざるを得ません。学校受験や資格試験で過去問の勉強が効果的なことと同じく、会計検査での過去の指摘事項を洗いざらい調べておくことが、まず何よりも肝要です。
また、会計検査院では、成果物の内容に対して、「何の基準書のどこの記載に基づいているのか」という具合に、常に明示できる根拠を求められます。「前例踏襲でそう決めた」といった主観的な判断は、全く通用しません。
従って、設計業務を進めるにあたっては、常に「この判断に客観的な妥当性はあるか」と、意識を向けることが大切です。特に基準書等に載っていない事例を判断する際には、関連する論文や事例の収集、学識経験者への確認など、客観的な根拠づくりが不可欠です。
さらに、会計検査においては、土木構造物の設計に関し、その「経済性」を何よりも重視します。設計条件の設定、使用材料・機械の選定、構造物の規格の決定等を行う時は、必ず経済比較を行い、最も安価な手法を採用するのが原則です。またその際、「イニシャルコスト」ではなく、メンテナンス費用等も含めた「ライフサイクルコスト」を尺度にする必要があります。
とはいえ、経済性を重視する余り、強度不足など所要の安全度を確保できない構造物になるのは論外です。また、実際の現場条件を考慮しないで、経済比較のみで工法を求めると、実際には施工が不可能な「施工者泣かせ」の設計図書になってしまいます。
他にも、コンサルタントとしての会計検査対策は様々ありますが、私が特に強調したいのは、「現場を知る」ことです。現場にできるだけ何度も足を運ぶことで、基準書や論文では決して知り得ることのできない、無数のヒントや設計条件がそこに存在することが、身に染みて分かります。
私自身も、忙しさから現場の確認を怠り、図面と資料だけで問題ないと判断した重機の組合せが、既設物の不等沈下を引き起こす事態を招いてしまった、苦い経験があります。会計検査院を長年務めた人が言った、「不適切な設計の大半は、現場を知らないことから起こっている」は、まさに至言といえるでしょう。
会計検査は、一義的には発注者が受けるものですが、受検前の設計内容の確認、受検での質疑に対する回答を、設計コンサル側も担うことになることが通例です。
設計者の立場として、ある程度それに応える必要はあるでしょうが、本来、発注者側で決めた設計条件や大きな方針であったものが、後付けで根拠づくりのための追加業務を要求されたり、一方的に責任を押し付けられたりするのは、受け入れ難い事案です。
こうしたトラブルの大半は、設計業務における責任分界点と判断経緯の「あいまいさ」に起因します。人事異動や組織替えで、発注者側のメンバーが入れ替わった場合、この「あいまいさ」が、より助長されるケースも少なくありません。
何の基準に基づく計算なのか、誰が最終判断を下した断面なのか。その時々なら携わっている誰もが知っていることでも、月日が経つにつれて、全てはおぼろげになってしまうのです。
発注者とのトラブルを未然に防ぐためには、常日頃の「確認」と「記録」がカギを握ります。何の基準に基づいて進めているのか。どの案を採用すると決めたのはいつ誰か、業務の各段階において、議事録や成果物の参考資料として、正確に記録することが大切です。
また、基準書だけでは甲乙つけ難い判断では、適切な提案をしつつ、発注者の意向をしっかりと確認していきます。意向に沿いつつも、発注者の判断に疑問を持ったなら、躊躇せず対案を示しましょう。互いに対等な立場を保ちつつ、合意形成を図ることができます。
さらに、会計検査時における、発注者側からの過度な業務依頼を防止するため、マメな「記録」が効果的です。マメな記録とは、経緯や議事の記録に加え、判断事項や設定項目が発生する毎に、その根拠となった基準や関連資料の該当箇所の抜粋、経済比較の積算根拠などを、くどいくらいに記録、記載することです。
そうすることで、発注者側のメンバーが総入れ替えになろうとも、成果物をざっと読んでもらえば、会検前に、あれこれ再確認されずに済むわけです。
会計検査という制度の存在により、設計コンサルタントとして、責任や業務量が増えるのは事実です。一方、会計検査のおかげで、不適切で客観的根拠のない設計が排除される浄化作用があるのも事実でしょう。
常に「会計検査院の検査官に質問されて答えられるか」という意識を持つことで、客観的な根拠に裏打ちされた、論理的な判断能力が鍛えられます。そうして、しっかりとエビデンスを紐づけることができるようになれば、会計検査に何度当たっても、発注者とともに、不安なく対処できるでしょう。
クライアントの発注者にとっての「一大事」を、対等かつ適切にサポートすることで、あなたの信頼度は上がり続け、「頼れるコンサルタント」として活躍することは、間違いありません。
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