設計コンサルタントの業務は、出来上がった設計図書の通りに構造物を完成させるのではなく、クライアントの意向に沿って、様々な知見や技術を取り入れながら、全く新しい「シナリオ」を創り上げていくものです。まさに、「未来を創る」仕事と言えるでしょう。
一方で、その業務量は多く多岐に渡り、納品期限前ともなれば、休日返上にもなりがちです。ベースとなる技術基準書は、改訂のたびに複雑かつ難解となり、技術に関する情報は年々増加の一途です。一方で、クライアントからは、より迅速な対応が求められる時代です。
このような時代の流れに対応し、クライアントの信頼を一層高めるため、これからの土木設計コンサルタントは、「知識力」、「技術力」、そして「コミュニケーション力」の3つのスキルを、より着実に伸ばしていく必要があります。
そして、この3つのスキルを最大限に発揮させるために、現代においては絶対に欠かすことのできない「読む力」とは何か、どう身に付けるのか、お伝えします。
クライアントの要望に沿って、最適な技術的手法を提案するのが、設計コンサルタントのミッションであり、必ず伸ばすべきスキル(能力)は、先に述べた3つに集約されます。
構造力学、土質力学、水理学、…といったベースとなる学問に対する正しい理解のもと、携わる土木施設に応じた技術基準・マニュアルはもちろん、関連する論文や最新の技法に関しても、常に習得に努め、アップデートする必要があります。
また、施工に関する知識が抜け落ちた成果物では、実際の現場では何の役にも立たない「絵に描いた餅」というのは、よく聞く話です。基準書通りの杓子定規にならず、現場条件に応じた柔軟な発想の転換を促す、施工管理全般に関する知識も求められます。
「技術」というと非常に幅広い意味となりますが、ここでいう「技術力」とは、大きく分けて、「条件設定力」と、「分析提案力」の2つを指します。
「条件設定力」とは、外的要素である土(地盤、土質、沈下)、水(水位、波浪、降雨)及び気(風向風力、台風)と、要求性能である耐震性、施工性、耐久性、美観性等を踏まえて、設計の前提条件を、適切に設定する能力です。
また「分析提案力」は、クライアントの課題の実態と原因を把握・特定し、客観的な分析を行い、様々な技術手法の中から、クライアントのニーズに最も適した解決手法を提示する能力です。コンサルタントの真骨頂とも言えるところでしょう。
クライアントとのコミュニケーションが円滑になるほど、相互理解が深まり、建設的な議論や、速やかな合意形成を図ることができます。さらに、施工業者や学識経験者、他業種のコンサルタントとも、良好なコミュニケーションを保つことで、相互補完的で有益な繋がりを拡げ、業務に大きく活用することができます。
では、この3つの能力を高めていけば、それだけでいいのでしょうか?
私の答えは、「ノー」です。なぜなら、今の時代は、あまりにも大量の情報が溢れていながら、時間が圧倒的に足りないからです。
現代人が1日に触れる情報量は、江戸時代の一年分、平安時代の一生分とも言われています。設計コンサルタントは、限られた期間の中で、最適な手法を導き出さなければなりません。そのため、何の情報や知識に的を絞って深堀すべきなのか、逆に、どの情報は一旦切り捨てるべきか、あるいはアウトソーシングすべきかを、迅速に判断していかなければ、解決策を導き出す時間さえ確保できません。
この土台が「読む力」です。「読む力」とは、クライアントが何を欲しているのか、何を避けたいのかを、「一歩先に読む」力です。
携わる業務で本当に必要な知識が何なのかを、いち早く「読み切る」ことができなければ、貴重な時間を不要な知識習得で無駄遣いし、肝心の解決策の検討が、稚拙になってしまいます。優れた技術力があっても、クライアントの本当の望みを「読む力」がないと、成果物はクライアントの意向と大きくかけ離れてしまいます。
このように、「読む力」を鍛えることで初めて、3つの能力が遺憾なく発揮されるのです。
ここでは、公共団体から、構造物新設の概略設計を受託したとしましょう。
概略設計の場合、仕様書も「概略的」に書かれている場合が少なくありません。仕様書に記載のない、業務の背景や、制約事項を「読み取る」ことが大切です。
そのため、契約後の最初の打合せは、「読む力」を鍛える絶好の場となります。構造物を新設する目的や経緯はもちろん、過去に同様な施設を建設していないかも確認します。また、仕様書に「最も経済的な工法を算出」としか記されていなかったとしても、例えば近接への環境負荷の低減や、工期や作業スペースの上限など、発注者自身にとっては「当然」なこととして、仕様書に書かれていない独自条件がないか、幅広く確認します。
一方、発注者側の中で、誰が「キーパーソン」なのかを把握します。名刺の肩書きだけでは分かりません。最も主体的な立場で、影響力が強いのは誰なのか、打合せのやり取りの中で「読み取る」のです。キーパーソンが分かれば、質疑や確認のやり取りは、必ずその人を主軸として介すようにします。これだけで、業務が圧倒的に速く進みます。
その後、業務が一定以上進んだ段階で、必要性の下がった比較や照査などを「読み」取り、発注者側にその省略と代替案を提案し、本来注力すべき作業を優先させます。
さらに、発注者側が意思決定に迷っている場合、決定に何が不足しているのかを「読み」取り、例えばそれが「信頼性」ならば、学識経験者にヒアリングする提案ができるでしょう。
公共団体の事業にはセットとなる「会計検査」の対策として、想定される質疑に必要なエビデンスを添えるのも効果的です。
こうして、常に「一歩先に読み取る」ことを継続するだけで、クライアント側の期待を越える成果品を収めることができます。そして、優良な成績評価、さらには随意契約や、複数年契約に繋がる可能性が高まるのです。
新型コロナの感染拡大を機に、働き方が大きく変わりました。テレワークの導入、時間外労働の規制強化など、ワークライフバランスの実現への取組みが進展しています。
設計コンサルタントは、非常にクリエイティブで、やり甲斐のある仕事です。ところが、「読む力」の視点を忘れ、言われるがままに目の前の業務に振り回されていると、ワークが「ライスワーク」になり下がり、バランスを失ってしまっている人も、過去の私を含め、少なくありません。
設計コンサルタントの中核として活躍される皆さん、あるいは、誰よりも信頼される設計コンサルタントを目指す皆さんが、「ライスワーク」ではなく「ライフワーク」を日々満喫し、充実した「ライフ」を送るためにも、常に「読む力」を意識し、主体的に行動することを願ってやみません。
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