建設コンサルタントの設計業務の成果品は一般に、設計図、構造計算書、数量計算書、報告書で1セットです。これらの品質の良し悪しについて、どのような物差しを持っているでしょうか?品質確保のために、照査マニュアル等でのチェック項目に準じ、出来たものを照査するといったことは実施していると思いますが、これはミス防止のためのアクションと言えます。ここでは、ミスをなくすという発想以外に、どういった事項が、成果品の差別化に繋がり、それがコンサルタントの資質にどのように影響するのかという点についての一考を記述していきたいと思います。
設計図におけるミスは論外で、不要なものを描くことも誤解を招くため厳禁です。つまり、主たる部分で他と差をつけるという発想自体がそもそも求められていないのが設計図です(設計コンペは例外)。
そして実際のところ、差となって現れるのは次のような事項です。
これらはみな体裁的なことであり、正確な情報を見やすくするためのものです。何社かの図面を同時に見るような機会があると、この程度のことでも意外に差があることに気づきます。しかしその程度の差であっても出来の悪い方には悪い印象が残ります。
構造計算のミスも論外です。プロ失格どころか賠償問題に発展する可能性があります。昨今では業務合理化のため、専門のソフトウェア等を使用して構造計算を行うことは常識だと思いますが、その実務をソフトウェアやそれを行う専門業者に丸投げしすぎていないでしょうか?
構造計算書は、直接業務を行なっていない人からすると、分厚くて重い無機質なものにしか見えません。
そのため、設計条件、計算上の考え方の説明(場合により簡易モデル図を作成)、計算結果が図面のどの部位に反映されているのかをいかにわかりやすく明示することが理解を得やすい計算書と言えます。この辺りのていねい度合いに、会社や担当者によって差が現れているのが実情だと思います。
数量計算は、各構造を構成するアイテムについて必要数量を積み上げ、最後に合算します。その過程の数式や根拠図、キーポイントとなる数値をいかに計算書内に残しておくか、後で見た人が見つけやすい場所にそれらがあるか、という点において、成果品毎に差が現れます。
数量計算書は、①工事概算金額算定、②積算、③工法変更、④施工業者の完工数量計算のベース、⑤会計検査時(たまに)、と色々なシーン別に用いられます。しかし、質の悪い数量計算書は、計算過程や根拠の明示が不足しがちのため、「①」でしか使えない場合が多く、②~⑤の際にクライアントや工事業者自身が手を加えて修正しているのが現実で、その度合いが大きいほどコンサルタントに対して悪い印象が残ります。
(設計)報告書というのは、コンサルタントが多くの打合せや調整を経て、計算書や設計図作成等を終え、最後に作成するものとなります。報告書に関しては「ここまで記述してください」という基準がなく、納期までの時間も少ない状況で作成を開始するためか、会社や担当者による差が一番現れやすいものになっています。最低限の主要設計根拠を貼っただけのものから、細部の判断や事業経緯、将来の懸念事項まで図表、写真込みで記述されているものまでピンキリです。
下表は、コンサルタントの成果品について、どの部分が見られやすいか、という点について、設計業務時と利用時(工事発注や工事中等)で、大まかに分けてみたものです。
コンサルタントは完了検査では良い評価を得たいが、あまり時間はかけられません。一方、クライントはコンサルタントの契約期間内に各種対外協議を終えたいため、設計成果の細部を見る時間があまりない、という状態になりがちです。コンサルタントの公式な評価というのは、そのような中で行われる完了検査を通じて実施されます。
成果品の細部まで見る必要があるため、雑な成果品についてはクライアントから問合せやクレームが入ります。一方、コンサルタントは成果品の不手際による手戻り作業で客先からの評判が下がるだけでなく、関係者は社内でマイナス評価が下されます。
もし、完了検査をギリギリ通るレベルの成果品をいつも出していたらどうなるでしょうか?それは目先の利益を優先し、後々のあなた自身の評価をじわじわ下げていることになります。
コンサルタントという職業は、「クライアントが小難しい/考える時間がない」、と感じていることを「客観的視点で整理し、わかりやすく説明し、クライアントが選択しやすいようメニューを提示する/アドバイスする」という仕事です。
ただ、建設コンサルタントの場合は、実際にその成果品が使われるのが数年後になるケースもあること。その時はコンサルタントにもう一度説明してもらう、というわけにもいかず、経緯から理解する必要があり報告書がまず読まれます。その時、報告書はコンサルタントそのものになります。
設計業務時にそういった状況を想定し、ていねいな成果品作成を心掛ける、ということは、コミュニケーション能力と同等にコンサルタントにとって重要な要素であり、そこを面倒に感じて適当に済ませてしまうか/先のことを考えて丁寧に作るか、という点に「公益の確保」というコンサルタントの資質の一面が問われているのだと考えます。