「峠道」はなぜくねくねしているのでしょうか?社会資本の整備や維持に携わっている皆さんであれば見知っていると思いますが、タイヤを履いた車では、山の斜面を直接走行できないため、それが可能なところまで緩やかな勾配で道路を作ったら結果的にくねくねになったというものです。橋やトンネルを作って、このカーブを減らすことはできますが、その工事費は高いため、特別な理由がない限り橋やトンネルは作らない、というのが山岳部における道路計画の基本方針です。
そのような背景で建設された山岳部の道路ですが、長年供用していると、毎年同じような交通事故が同じ箇所で起こったり(交通事故多発地点)、大雨の際に土砂崩れが起きやすい区間が散見されたりと、その路線の特徴が現れてきます。また、近隣の開発が進んで、渋滞しやすい区間ができることもあります。
そういった状況に対し、もう1本バイパスを作る、橋やトンネルを作るという手段で解決を図ることもありますが、問題のある区間だけ「拡幅する/線形改良する」という対応を採ることが一般的です。
急峻な地形にある現道を拡幅したい場合、どのような考え方で展開していくかですが、どういう拡幅をしたいか(設計条件)を明確にすると同時に、地山に対して次のどちらの対処を行うかを大筋決める必要があります。
皆さんは既に、地山に生えている草木がどれだけ斜面の安定に貢献しているかを知っていると思います。この点は道路を構築する際も重視する点で、山を切った場合は斜面対策工を行なったとしても、土砂崩れのリスクは以前より高くなりますので、原則として上記の(1)を採用することが基本となります。
もちろん、谷側が90度に近い崖の場合は(2)しか採用できません。
現道を谷側に張り出して拡幅する場合、どのような工法が考えられるのかを簡単に紹介します。多くの工法がありますので、どれを選べばいいのかわからないという意見もあるかと思います。以下に構造メカニズム別に簡易に分類してみました。
(1)、(2)、(3)については現状の地山の支持力/支持層によってサイズが変化するため、設計段階からある程度信頼性のある地質調査結果が必要になります。
簡易分類したそれぞれのメカニズムに属す工法としては以下のようなものが挙げられます。
重力式擁壁、L型擁壁、逆T式擁壁
メタルロード工法
テールアルメ工法、多数アンカー式工法
気泡混合軽量土(FCB)、発砲スチロールブロック工法、現場発泡ウレタン軽量盛土工法等
他にもありますが、紙面の都合上、省略します。
比較時においては、工法説明、施工上のメリット/デメリット、コスト、追加用地取得の有無、環境への影響、工法への信頼性、交通規制、等の項目で比較し判定をしていきます。さらに、以下のような点については見落とされがちなので、そこもしっかりと対応しておく必要があります。
設計コンサルタントがそれぞれの工法の部材詳細まで熟知するのはさすがに困難なため、実際にはメーカーにアドバイスや資料提供をお願いし、業務を進めることになります。ただし、メーカーが自社の製品に有利な偏った情報を提供する可能性もありますので、客観的な仕様に変換できるかどうかがコンサルタントに求められる姿勢です。
工法は設計時の比較検討をベースに最終的にはクライアントが決めます。しかし、設計時の判断と工事の時の判断が社会情勢によって変わることもあるため、設計段階においては、その条件とコンサルタントの意見をしっかりと明記しておくことが重要です。もし将来、事故等が発生した際に、責任の擦り付け合いという事態だけは避けるためにも注意しておきましょう。