昨年12月から2月までの3ヶ月間、WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」を開催しました。最後に企画を振り返って、山崎さんご本人にお話を伺いました。
5年間、全国津々浦々建設現場を見させていただいたり、あるいは災害の補修・補強のような最前線で立ち向かっている人たちに出会いました。あらゆる現場をみてきたので当然のようにストックもたくさんありました。私の中では色んなお一人お一人のエピソードがあって、さてどの方をヒーロー、ヒロインにしようかと。人生とまではいかないですけど、苦労したり、喜んだり。“そんなことあるよね”と、見ている人たちに共感してもらえないかなと。そこは写真をセレクトする上で最初の軸にしました。
私が一番基本としているのがやっぱり人が好き、人がかっこいいということ。まずそれが前提にあって写真を撮っているので、現場の人の魅力をどうやって伝えようかというところに、今回苦労というか楽しみがありました。
写真を1枚と決めたにも関わらず、この写真があってこの表情とか、自分の中でジレンマがありました。第八回の「夜間の点検作業と一番星」という写真も、高所作業車に乗って夜暗い中ちょっとだけライトを充てて作業しているのを俯瞰から撮ったかっこいい写真があるんですよね。
これにしようと思って、その写真を見ながら文章を書いていたんですけど、別の写真が最後に出てきて。川べりのところに行って、真っ暗だったんですよね。零時過ぎていて寒いし。どの辺で作業しているんだろうと少しずつ移動していたら、「ピカ~」って光って。空を見たら真っ暗な中星だけが輝いていて、そんな中で高所作業車が光ったときに一番星だと。あのときの状況が浮かんで、「え、ちょっと待って、これじゃない写真。」ってあの写真になったんですよ。
【夜間の点検作業と一番星】
WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」3rd month~365日の守り人たち~第八回より
最後はどういう写真で収めるのがいいのかとすごく悩んで…。でも一番私が現場で力をもらった瞬間が現場の皆さんの笑顔で。99%ぐらい下を向いて作業されているんですけど、ふと顔を上げた瞬間、コミュニケーションを取っている瞬間に見せてくださる笑顔を切り取れた時、ご褒美をいただいたような気持ちになるんです。
私が近づいてもずっと自然にされる人もいれば「ちょっと近いよ。」と照れくさそうに笑顔をくださったり。撮影中、一体感を得たときにもらえる笑顔もあったりします。
【現場のヒーローたちへ】
WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」3rd month~365日の守り人たち~第十一回より
建設業界を撮り始めたのは2017年の秋からですね。著名人の方を撮影したり、深海の番組に携わり潜水艇に乗って撮影したりとジャンルが違う世界にいたので、まさか現場の方を追いかけるというのは想像もできなかったです。共通の友人を介して寿建設株式会社の森崎社長と出会わせていただいたんですが、友人のホームページに山崎エリナという名前があって、どんな人なのか調べていただいたらしいんですよね。写真集『「ただいま」「おかえり」』を見て、こういう物語性がある人が現場を撮ったらどうなるんだろうというところから、「現場を撮ってみませんか?」という話になりました。私もすごく好奇心があったし、阪神淡路大震災を経験していて、ちょうどその頃、東日本大震災で何か自分にできることがないかなと思っていた時期だったので、「ぜひ行ってみたいです。」と見学に行ったのが除草の現場で。何を撮ればいいんだろうって最初思っちゃうんですけど、よく見たら、草と土の地面からすれすれのところをカットしているなとか、そういうところに驚きと感動を私はあの時に感じて。無我夢中で撮っていたら人ばっかり撮っていて、森崎社長も驚いたんだと思うんですけど。
でもそれを冊子にしてくださって、“俺たちかっこいいんだな”って反響をいただいたのがすごく嬉しかったし、その前に“これを撮りたい”と思って「次も行きます!」となりました。人ですね。魅力は。
どんな作業をするという情報を全く入れずに、「ここです。」って言われて現場に行くことも結構多くて。知識と先入観なしで現場に行くので、より人に近づけるのかもしれないなと。
「今この方は何をしているんだろう。」っていうクエスチョンから始まるので、知りたいという探求心でどんどん近寄って、数分や一時間程度かもしれないけど、その方の熱量を体感して、共有したい、みたいな。
【猛暑の中での作業、横顔に光る汗の美しさ】
WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」2nd month~現場最前線~第五回より
【リーダーの誇りと笑顔】
WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」1st month~女性活躍~第一回より
第一回のヒロインの方に、福島のトークイベントですごく久しぶりにお会いしました。当初から彼女が言ってくれる嬉しい言葉があって、それが「あの写真はエリナさんじゃなきゃ撮れなかった。他の人が来ても、私たちはこういう風に撮られていない。写真を見て感じるものがある。」という言葉。そこから何回か通わせていただいて、すごく受け入れてくれているというか、懐に入らせてもらえた感じになったのかなって。
環境的に難しかったのは『トンネル誕生』にでてくるトンネルの現場ですね。
掘り起こすトンネルの壁に向かった作業が多くて、表情を撮るために回り込めないというジレンマはありました。撮りたいけど、でも「行っちゃ駄目だよ。」って言われるから、後ろ姿で何か伝えられないかなと思って背中っていうところにいき着いたんですけど、表情が撮りたいというジレンマはすごくありました。
【トンネル貫通に挑む技術者】
WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」2nd month~現場最前線~第四回より
いろんな現場があって、そこにはいろんな職人さんや技術者さんがいらっしゃる。空気感をまずみて、この方はこういう感じの方なんだなとか、性格とまではいかないですけど、その人が持っているものを感じ取りながら、会話をしている雰囲気を見たり。作業を止めないっていうのは前提ですけど、作業される方が「なんでこの人撮影しているんだろう。何に使うんだろう。」って思われている感じがすると、まず「撮影させてもらっています。今何やっているんですか?」って話しかけたり。そうすると「これこうなんだよ。俺たち撮るの~?」って。「そうなんです。人がメインなんです。」って言うと、「えー、俺たちかー!」ってちょっと盛り上がったりとかして。
現場によってはムードを作ったりします。どうしても写真にのめり込むと近寄っちゃうところがあるので、写真に慣れてもらうためにも、カシャカシャ押して、撮られることに慣れてもらって、肩の力が抜けて、自然になってきたなっていうところで最高の一枚を切る時もあります。
写真集の『Civil Engineers土木の肖像』で、顔をクローズアップした作品が多いんですけど、当然写真を家族で見られますよね。見た時に家族も気が付かなかったっていう。それぐらい、いつもと違う表情で誰も気が付いてくれなくて「俺だ、俺だ!」ってなったっていう話をされていた方がいて。“お父さんこんな仕事しているのね”って思ってくれたり、“お父さんかっこいい”って話題にしてもらえると、とても嬉しいですよね。
【災害時にも1番に駆けつけ地域を守る】
WEB写真展「山崎エリナ×建設業の魅力」3rd month~365日の守り人たち~第十回より
現場には人がいてくれる。当たり前なんだけど、そこに気づいてくださる。私もそこに気が付きました。この人たちがいてくれるから安全な生活、暮らしをさせていただいている。人の大事さっていうところに気づいてもらえるというのはすごく嬉しいです。そこに気づいてくれて感動してくれたんだと思うと一緒になって号泣してしまう。
感じたこと、それが今伝えたいことになっているんですけど、人っていう魅力とか大切さっていうものを伝えられたり、感じてもらえていたら一番嬉しいなって思います。
昔は道路や橋ができると「ありがとう」って感謝されていたけど、今は当たり前に思われることが多いです。写真を通してですけど、みなさん一様に言ってくださるのが感謝の言葉で。5歳児の男の子が、たまたま写真展に来たんですよ。そしたら最後に「ありがとう。みんなすごいかっこよかった。」って言うんですよ。めちゃくちゃ嬉しくて。
みなさん撮影に伺うと「俺たちはいいんだよ~。」って恥ずかしがり屋な方もいらっしゃるし、控えめな方が全体的に多いです。でも写真に収めたときに、写真を見た人が感動したり、誇りを感じるって言ってくださって。それは私の写真の力ではなく、生の現場の人たち、実際の人たちを撮っているので、その人自身が本当にすごい力を持っているんだということを一番に伝えたくて。日本を守ってくれている重要な人たちなんだって、毎回頭が下がる思いになりますね。
今回山崎さんにお話を伺って印象的だったのが「人」、そして「感謝」という言葉です。建設業界の撮影を始めて5年。撮影当初から山崎さんご自身が現場の人に魅了され、作品を通して現場の魅力を発信し続けられています。感謝の思いを抱きながら撮影した写真で、撮影された人も写真を見た人もみんなが感謝する。とっても素敵ですよね。
柔らかい雰囲気で、私も話をしていると自然と笑顔になってしまいました。そんな人柄の山崎さんだからこそ、建設業界で働く人のありのままの姿を切り取って写してくれているのだと思います。今後は写真だけでなく、音楽制作にも力を入れていくとのこと。色んなことにチャレンジされる山崎さんをサガシバ編集部も応援しています!
兵庫県神戸市出身。パリを拠点に3 年間の写真活動に専念する。
40カ国以上を旅して撮影を続け、エッセイを執筆。帰国後、国内外で写真展を多数開催し、雑誌・雑誌連載・広告・映像などで活躍する。
2018〜2022年は「インフラメンテナンス」写真展を全国各地で開催。2019年はアンジェイ・ワイダ監督や坂本龍一氏が評価した代表作『ただいま おかえり』、『Saudade』をフランスルーブル美術館でも写真展示。
橋梁やトンネル、道路のメンテナンス現場を撮影した写真集『インフラメンテナンス~日本列島365日、道路はこうして守られている』は、インフラメンテナンス大賞優秀賞を受賞(国土交通省)。2023年にはこれまでの取り組みの成果が評価され、インフラメンテナンス 特別賞を受賞(JFCE)。八重洲ブックセンター本店にて週間ベストセラー総合1位になるなど話題を集めている。
現場の人の魅力を切り取った写真集『Civil Engineers 土木の肖像』、『トンネル誕生』、『鉄に生きる~サスティナブルメタル電気炉鉄鋼の世界~(グッドブックス)』などがある。
最先端の技術を駆使して建設された世界最大級の海洋構造物。東京湾アクアラインの開通から25年を期して、気鋭の写真家・山崎エリナが、その景観と、海底トンネルや橋梁の構造美、そして巨大換気塔「風の塔」内部や緊急時の避難通路、日々の安全管理やメンテナンスに取り組む人々など、ふだんは見られない光景を激写!
著者:山崎エリナ予約受付中!Amazon予約はこちら、グッドブックス予約はこちら
4月に紀伊國屋書店本店にて出版記念イベント開催予定。アクアライン・海ほたるにて写真展開催予定。
カーディーラーや大学施設の建築、河川や道路の工事、海の環境整備まで、多彩な現場の迫力ある風景の中で、いきいきと作業する人たちの表情をとらえた97点橋梁、トンネル、道路など土木現場で働く人をクローズアップした写真で「インフラメンテナンス大賞」を受賞した写真家・山崎エリナが、岡山の作業現場を撮影。地域のインフラを担うローカルゼネコンのありのままの姿が活写されている。
著者:山崎エリナ