2020年の労働災害による死亡者数は、3年連続で過去最少となりました。一方で、休業4日以上の労働災害による死傷者数は、高齢者の労働災害、転倒災害や「動作の反動・無理な動作」による労働災害が年々増加していることや、新型コロナウイルス感染症の罹患による労働災害により、2002年以降では最多となりました。
安全パトロールは、コロナ禍の中でどこまで実施するかが悩みどころですが、建設業、特に工事現場ではリモートワークは不可能です。コロナのリスクとそれ以外の労災リスク、どちらも天秤にかけることはできません。この記事では、この安全パトロールにおける点検項目として、現在私が重要視している指差呼称についてご紹介します。
指差呼称は、約100年前に国鉄で創始された、日本発祥の革新的な産業安全メソッドです。作業鉄道やバスをはじめとする公共交通事業では、指差呼称は現場で習慣化していますので、街中でもそのシーンをよく見かけることがあります。近年では、製造業、建設業など幅広い産業が取り入れており、建設業では安全朝礼をはじめとして日々励行されていることと思います。
作業を安全に誤りなく進めるため、危険を伴う作業のそれぞれの要所において、確認すべき対象をしっかり見つめ、指を差し、「〇〇〇、ヨシ!」と、大きな声で呼称しながら確認します。呼称内容は、「対象」と「状態」を明確にすることが大切です。よく「手元ヨシ!」「足元ヨシ!」なとど耳にしますが、これでは「状態」が明確になっていないため、ふさわしくない事例となります。
指差および呼称を行うと、何もしないときと比べて3倍以上脳を使うとされており、視線の停留、反応遅延の抑制、記憶形成の強化、認知精度の強化、大脳の覚醒等の効果により、注意力が高まると言われています。
公益財団法人鉄道総合技術研究所の効果検定実験データでは、「指差呼称」を行うと、何もしなかったときと比べ、ミスを1/6に減少させる有効な手段として一定の効果を上げているという結果が確認されているのです。
さて、この指差呼称の海外での導入状況はいかがでしょうか。20世紀の終盤あたりから、ちらほら指差呼称の輸出状況が伺えます。
1996年にはMTA(ニューヨーク州都市交通局)の地下鉄にて、米国労働者向けにアレンジされた「指差呼称」の導入開始、2007年には新幹線方式で開業した台湾高速鉄道にて、日本流の「指差呼称」の導入開始、2018年には外務省が日本を紹介する短編動画番組「JAPAN VIDEO TOPICS」にて「指差呼称」が紹介されました。
しかし、これらはむしろまれな例であり、指差呼称の日本以外での導入はごく少数のようです。目で見て確認しているものをわざわざ指を差す、あるいは声に出す必要はないと海外では考えられてしまうようです。指差呼称が今後世界中に着々と広がると考えるのは、まだまだ早計のようです。
建設業においても、これまでそれなりに実施されてきている指差呼称ですが、その実態はいかがでしょうか。おそらく、朝礼時の点呼だけ、安全パトロールがあるときだけ、職長の方だけ、というような実施状況というケースも多いのではないでしょうか。その理由は、なんだか気恥ずかしいから、少し面倒くさいから、どこでやったらいいかわからないから、などというところなのでしょうか。恥ずかしがらず、形骸化せず、あなたの声と、あなたの指で、大切なものをぜひ守っていただきたいです。
以上、安全と安心を確保できる指差呼称についてご紹介いたしました。
私の勤務する会社では、横断歩道を渡るときや、火の元確認などのシーンも含め、日常における全ての業務シーンにおける指差呼称の習慣化を目指しております。
建設業でも当たり前の指差呼称。でも、意外と形骸化していて、いざというとき指も声も出ないということもあるのではないでしょうか。指差呼称の効果を今一度実感いただき、形骸化を打破して取り組んでみていただけたら幸いです。
この記事を読んでいるあなたへ 「仮設・安全・保全」に関する製品・工法をお探しの場合はこちら |