日本には現在約3580万本の電柱があるとされており、更に毎年7万本ずつ増加していると言われています。政府の無電柱化への取り組みは、昭和61年に第一期計画が始まり、現在第7期計画に進んでいます。それぞれの期で、無電柱化の目的や対象となる路線、費用負担や構造形式などが見直され推進されてきました。
現在の日本の無電柱化率は、最も進展している東京23区で8%、諸外国ではロンドン、パリ、香港などで100%であり、日本の遅れが際立ちます。
日本の無電柱化が進まない理由には次のようなものが挙げられます。
① コストが高い
② 電線管理者との調整が困難
③ 地上機器の置き場がない
④ 道路が狭く埋設物が多い
⑤ 事業期間が長い
無電柱化の事業費は約5.3億円/kmとなっています。現地の状況や舗装のグレードにより金額が変わってきます。内訳は以下のようになります。
電線管理者負担 | 約1.8億円 |
道路管理者負担 | 約1.75億円 |
国庫補助 | 約1.75億円 |
道路管理者の負担は約1/3となりますが、特に地方自治体にとっては大きな負担となります。
平成31年3月に「道路の無電柱化低コスト手法導入の手引き(案)-ver.2-」が発行され、設計段階において低コスト化の検討が盛り込まれるようになりました。
しかし、まだ本格的な導入には至っていないのと、材料が特注で割高となり低コスト化に繋がっていないなど、今後の課題が多く残っています。
無電柱化事業で道路管理者にとって最も手間がかかるのが、電線管理者との調整ではないでしょうか。
無電柱化を行う際には、既存の電柱に添架している電力会社、NTT、その他通信事業者や警察など、多くの電線管理者との調整が必要で、かつ電線共同溝特別措置法に基づく手続きを行なっていく必要があります。
道路管理者側がある程度無電柱化事業に精通していれば、電線管理者との調整をスムーズに進めていくことが可能です。しかしそうでなければ、電線管理者から配線計画図を提出してもらう頃にはコンサルタント会社との契約工期が半分以上経過しているなど、予定通りに事業を進められないケースが見受けられます。
無電柱化を行う上で、必ずといっていいほどネックになるのが地上機器の置き場です。特に市町村道で無電柱化を実施する場合は顕著です。地上機器の置場選定は、沿道土地所有者との調整を要することから、道路管理者と電力会社が協力して実施します。どうしても地上機器が配置出来ない場合は、ソフト地中化と呼ばれる柱状トランスの設置などを検討することになります。地上機器の配置計画に時間を要してしまうと、設計工期に影響したり、設計の手戻りが生じたりと、事業の遅れへと繋がっていきます。
無電柱化の対象となるのは街中の道路であることが多く、既に水道、ガス、下水道などが埋設されています。時にはNTTや電力の管路が埋設されていることもあります。電線共同溝を計画する場合、これらの既設埋設物の事前移設を必要とする場合があり、コスト、事業期間に影響します。
NTTや電力の既設管路がある場合、既存ストックとして活用する方法があり、事前移設の回避や新設管路の数量を減らすことが出来、経済設計にも繋がります。
しかし、これらの設備の活用が出来ない場合、事前移設工事はコスト、工期共に道路管理者にとって負担となります。
無電柱化事業は、路線の合意から始まり、予備設計(電線管理者との調整)、詳細設計、事前移設工事、本体管路工事、民地内引込設備工事、台帳整備、入線工事、抜柱工事、舗装復旧まで5年から7年程度の期間を要します。これだけ期間が長いと、道路管理者のみでなく、電線管理者や各埋設物管理者の担当者が交代することもあり、事業の進捗に影響を与えたり、沿道の土地利用の変化により手戻り工事が生じることもあり注意が必要になってきます。
以上、無電柱化事業の課題を5つ挙げました。
他にも無電柱化が進まない要因は考えられますが、ここで挙げた課題は特に多くの路線で共通する課題です。無電柱化は景観上の目的だけでなく、地震時の電柱倒壊による交通遮断の防止など防災上の目的もあります。道路管理者と電線管理者の双方が積極的に取り組んでいく必要があります。
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