土壌汚染対策法(以降、「土対法」という。)に示される基準、正式には要措置区域の指定に関わる基準ですが、土壌溶出量と土壌含有量の2つ基準が定められています。この2つの基準は、どのような考え方で定められているかのお話です。
土対法に示される基準は、第一種特定有害物質(揮発性有機化合物)が12物質、第二種特定有害物質(重金属類)が9物質、第三種特定有害物質(農薬類)が5物質の、合計26物質が指定されています。
基準には、土壌溶出量と土壌含有量の2種類があり、土壌溶出量基準は全26物質、土壌含有量基準は重金属類の9物質のみが指定されています。土壌溶出量の基準値は、「毎日2リットルの汚染水を70年間(人の一生に相当)飲み続けた場合、健康に対する有害な影響がない濃度、または発がん性の危険率が十万分の1以上向上するときの濃度」、土壌含有量は、「一生涯(70年)汚染土壌のある土地に居住した場合を想定し、1日あたり子ども(6歳以下)200mg、大人100mgの土壌を摂食しても健康に対する有害な影響がない濃度」という考え方が基本になっています。
この話をすると、大半の方は「70年間!そんなに厳しい基準値なの?」とびっくりされます。勿論、この基準値は慢性毒性だけでなく、急性毒性のリスクも考慮されていますが…。
次に、土壌溶出量と土壌含有量の違いです。土対法では、人の健康被害の防止を目的としており、地下水等経由の摂取リスクを考慮した土壌溶出量、直接摂取リスクを考慮した土壌含有量の2つの基準値が設けられています。
土壌溶出量は、土壌に含まれる有害物質が地下水に溶け出して、その有害物質を含んだ地下水(井戸水等)を飲んで口にすることによるリスクを想定した基準です。つまり、土壌溶出量が基準超過していても、周辺の地下水を飲用しなければ健康被害が生じることはありません。土壌調査の結果、土壌溶出量が基準超過しているにも関わらず、「盛土や舗装で遮断すれば大丈夫」と対策方法を誤解されている方がいます。地下水の拡散を防止する対策が基本なので注意してください。分析は、地下水への溶け出しやすさを再現するため、水と土壌を混合して6時間振とうした溶出液の濃度を分析します。
土壌含有量は、有害物質を含む土壌を口や肌などから直接摂取することによるリスクを想定した基準です。つまり、直接摂取できないよう遮断すれば健康被害が生じることはありません。盛土や舗装での遮断が有効なのは、この土壌含有量が基準超過している場合です。分析は、胃酸と同じ程度の弱い酸を用いて土壌からの溶出液を作成し、その濃度を分析することで土壌1kgあたりに含有する重量を算出します。
溶出量(単位:mg/l)には他にも基準値があります。海面処分場等で用いられている海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に定められる水底土砂に係る判定基準と土対法の土壌溶出量基準を比較し、「海面処分場等の方が判定基準の濃度が10倍緩い!」と言われる方がいます。確かに、同じ項目で基準値の濃度が10倍違うものがありますが、サンプリングの方法も違いますし、分析における前処理方法が異なるため、分析結果を流用することはできません。土対法の土壌溶出量の基準不適合土壌は、濃度的に海面処分場等の基準値以下であっても単純に「基準適合!」とはなりませんので注意してください。
また、含有量(単位:mg/kg)にも分析方法によって種類があります。含有量には、自然由来による基準超過を判定するために実施する全量分析という分析があります。全量分析は、非常に強い酸やアルカリを用いて加熱処理することにより、土壌中に含まれる対象物質を全て抽出する分析方法です。したがって、胃酸に近い濃度で抽出する土壌含有量に比べて濃度が高くなり、単位が同じでも濃度を比較することができませんので注意が必要です。
以上、土対法の基準を簡単に解説してきましたが、基準値には土壌溶出量と土壌含有量の2種類があり、どちらが基準超過しているかで対策方法が異なること、溶出量や含有量は他にも種類があり、単位が同じでも濃度を比較できないことを注意してください。
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