災害復旧調査に参加した体験談

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はじめに


こんにちは。私は上下水道コンサルタント会社に勤めて今年で9年目になります。

今回は、私が入社して5年目に起きた「平成30年7月豪雨」の際、岡山県内の下水処理場が水没し、その災害復旧にコンサルタントとして参加した体験談をお話ししたいと思います。


西日本豪雨の特徴と浸水被害の状況



ご存じの方も多いかと思いますが、「平成30年7月豪雨」は、これまでの豪雨に比べて、広い地域で2日間あるいは3日間の間に降った雨量が多いという特徴が挙げられます。西日本から東海地方にかけての地域を中心に、多くの地点で48時間、72時間雨量の観測史上最大値を記録し、各県で河川の氾濫や洪水、土砂災害といった被害が多く発生しました。

私が実際に行った岡山県はニュースで取り上げられました。河川堤防の一部が決壊し、そこから提内地へ一気に川の水が流れこんで地域一帯が水没し、相当数の死者・行方不明者を出したとともに、下水道施設を含む公共施設や住宅被害も甚大なものでした。


下水処理場の被害


 

 災害発生時の状況

災害が発生した当時の処理場は2~3階建ての屋上だけが見えるような状況で、それ以外の施設は地上から見ると全て水没していました。最終的に記録された浸水深(地面からの浸水の高さ)は約4mで、地上の建物は窓ガラスが割れてそこから浸水し、ドアなどの開口部を通して地下も全て浸水していました。

建物や下水処理場の特徴である機械設備・電気設備が全て浸水により機能を失い、下水処理場が停止したため、緊急対応として、水をくみ上げるポンプとそれを動かすための可搬式の発電機が処理場まで搬入・設置されていました。また、緊急時に必要最低限の要求水質を確保するために、塩素消毒に必要な固形塩素を池に投入するといった対応が行われていました。

私が現地へ行ったのは、役所から委託の発注を受けて社内体制を整えた後であり、災害が発生してから数日後が経っていました。初めて現場に行った日は、既に水は引いていたのですが、処理場内全てが土砂で覆われているという見たことのない光景でした。


 コンサルタントとしての災害復旧調査

緊急対応の完了後、我々コンサルタントが主となり段階的に全ての処理機能を復旧していくための対応を検討していくことになります。

まずは被害状況を詳細に把握することが必須なため、下水処理場の全ての施設・設備の浸水被害調査を行いました。調査時期は7月中旬の非常に暑い中で、岡山県内のホテルを拠点として確保し、1週間の間、毎日処理場に赴き、全ての資産調査を行いました。

私は土木の担当でしたので、地下構造物の被害状況を確認するため、浸水後の土砂が覆っている中、まだ場内の電灯が復旧していない状況下で地下構造物(水槽)の上を歩いて調査しました。水槽の上には開口があり、通常は点検のために蓋があるのですが、この蓋が全て流されており、滑って転落でもしてしまえば、命を落としてしまう危険性がありました。

調査を無事に終えた後は、会社に戻り被害状況をまとめ、調査結果を基に今後の復旧対応策の検討を行いました。最終的には報告書にまとめ、災害査定として国(地方整備局)の復旧要望に対する査定を通過し、発注者の事業として災害復旧を成立させることができました。


災害復旧に参加した経験から感じたこと



 人の素晴らしさ

私は現場入りした初日、処理場への移動中に何かにブルーシートを被せている場所をいくつか見ました。それは浸水で亡くなった方の遺体を一時保管している場所でしたが、その時の正直な気持ちとして、「こんな場所から即刻離れて通常の業務に戻りたい」と思っていました。今でもその光景は忘れられません。

しかし、現場に滞在中、周囲を眺めていると、ボランティアの方が真剣な表情で、暑い中嫌がりもせず道の土砂を清掃したり瓦礫を運んだりと、自分にできることを探しながら、皆で協力し合って朝から晩まで一生懸命何とか復旧しようと努力されている姿に心を打たれました。

私は仕事として来ているだけなのに、現地の方から、「ありがとうございます」と心からの感謝の言葉や、「少しでもゆっくりして疲れをとってください」と自分たちの方が大変な思いをしている中で他人の私に気を遣ってくださるなど、言葉では伝えきれない親切を受け、日を追うごとに「何とか復旧に貢献したい」と思い、災害と向き合うことができるようになりました。


 日本人の優秀さ

先に書いたように、私は被害が発生してから数日後に現地入りしました。地方のローカル線は浸水で壊滅して復旧の目途が立たず、道路の基幹ルートは土砂災害で閉鎖していました。

しかし、このような状況下でも、私が現場入りした日には既に処理場の応急復旧が完了していただけでなく、迂回ルートや仮設道路の整備が迅速に行われ、多少の交通渋滞はあっても交通の便で支障を感じることはありませんでした。また、コンビニやスーパーといった日常生活で必須となる施設の多くが浸水被害で休業していましたが、被害を免れた食品や生活用品は代替の施設で確保されており、現地の方が困らないよう配慮されていました。

これは災害が発生してから数日の間に、自衛隊を筆頭に、建設業だけでなく復旧に携わる様々な機関の優秀さを物語っていると思います。


おわりに


 

今回は私の災害復旧の体験談をお話ししました。災害は発生しないことが望ましい限りですが、特に豪雨災害は今後も増加していくと予想されます。このような自然災害に対し、下水道事業はハード(施設整備)ではなく、避難速度の向上といったソフト対策に重点を置いて対応していこうという動きが見受けられます。

私もこの経験を踏まえ、今後一つでも多くの被害を軽減できるよう、業務に取り組んでいこうと思います。


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この記事のライター
上下水道コンサルタント会社で入社9年になる33歳です。現在は主に下水道施設(処理場やポンプ場など)の土木設計を担当しています。
趣味はサッカーで、見ることも自分でやることも大好きで、Jリーグや海外サッカーなどをよく見ます。最近はコロナの影響もありご無沙汰していますが、会社メンバーでフットサルをして楽しんでいます。プライベートでは3人の子供がおりワイワイにぎやかに毎日楽しく過ごしています。よろしくお願いいたします。
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