【スペシャル記事】「“やりたいこと=WILL”をする決断こそが、幸せなキャリアの鍵」24歳で交通技術者→29歳で技術士取得→30歳で管理技術者→32歳で大学院入学→34歳で本社のHR・経営企画を経験したオリコン伊藤氏にインタビュー

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『サガシバ』編集部 [//] / 伊藤 昌明(株式会社オリエンタルコンサルタンツ) [監修・編纂]


 

前回のスペシャル記事でもご登場いただいた、株式会社オリエンタルコンサルタンツの伊藤 昌明 氏。

『若手の会』の設立はもちろんのこと、ご自身の他のキャリアについても一筋縄ではいかない経歴を持つ伊藤氏に、今後業界で活きるキャリアを築く方法について『サガシバ』編集部がインタビューしてきました。


■管理技術者の資格を取るまでの道



――新入社員、若手時代のキャリアについて、どんなことを考えていたか、教えてください。


伊藤氏:交通技術者としてキャリアをスタートした当時は、自分の興味ある案件にはなんでも首を突っ込んでいました。当時は、将来のキャリアなんてあまり考えていませんでした。それよりも、目の前の興味ある仕事を必死にこなしているという感じでした。それこそ100点を目指すぐらいの勢いで。ただ、興味がないことには7割くらいの力しか出していなかったので、上司からは「何だこいつ。全部に全力出せよ」みたいな目で見られていました。(笑)もちろん、合格点以上はもらってましたよ。(笑)

 

――その頃はどんなやり方で仕事をしていましたか。伊藤流仕事術を教えてください。

 

伊藤氏株式会社オリエンタルコンサルタンツ(以下、オリコン)は、業界の中では大きい会社で歴史も長いので、プロポーザル提案書や業務上の技術ポイントなど、技術的ストックが、社内イントラ上にたくさんありました。新人社員や若いときには全然思い付かないような素晴らしいアイデアがシステムの中に眠っているんです。若い時代は、時間があるときは過去の提案書や企画書、業務フォルダをのぞき見していましたね。

 

僕は、もともと建築系の学科だったので、交通計画の知識も少なく、真似できるところは全部真似していきたいと思っていました。専門スキルがなかったので、そうせざるを得なかったんですけどね(笑)。その上で、過去業務では反映できていない最新の技術をプラスするという感覚で取り組んでいました。今思えば、使えるものは使った方がオリコンとしてのブランドを有効活用できて、さらにプラスアルファの価値を生めるという自分なりのロジックがあってのことでした。ですが、先輩の中には、「そんなものは見てはダメだ。一から自分で考えてこそ技術力が身につくんだ」と言われることもありました。

 

――そういったプレッシャーをどのように乗り越えていたのでしょうか。


伊藤氏:仕事ってやっぱり自分のやり方や時間などをコントロールできる立場、権限を持ってやることが一番楽しいじゃないですか。そのためには早く技術士の資格をとって管理技術者になることを目標にしていました。例を挙げると、残業するのが好きじゃなかったのでタイムマネジメントをめちゃくちゃ意識していて、みんなが22時、23時まで残っている時代に、僕は19時、20時ぐらいには帰ってました。土曜日の午前中は仕事の時間と決めて早く帰った分を取り戻してたんですけどね。そしたら「伊藤はいつも早いな。暇ならこの仕事もやってくれ」と言われてました。

 

でも僕は超効率型の人間なんで、ペースを崩すと効率が悪くなることを自分で分かっていたから、そこはのらりくらりとやり過ごしました。で、29歳で技術士の資格を取り、30歳で管理技術者をやることになりました。

 

■そして本社・出向へ――



――技術畑から本社に異動したのは、どんな経緯だったのですか。


伊藤氏30歳で管理技術者になり、自分でプロポーザル提案書を書き、ヒアリングし、特定した時は格別でしたね!仕事も自分でコントロールできるようになり、とても楽しかったのを覚えています。ただ、同時に責任も重かったですけど。

 

2年ほど管理技術者として、企画提案し、受注し、生産し、検査を受け納品する。その流れを一通り経験しました。そうした中で、この先何十年も同じスタイルでキャリアを積んでいくのか、それが自分にとってやりたいことなのかどうか、ということを考えるようになったんです。

 

当然こうした問いは何が正しい答えなのか、わかんないですよね。日々悶々としていた記憶があります。答えが出ない中で、ちょうど高知工科大学大学院の社会人コースで勉強してみないかという話が会社からきて、即答で「行きます!」と返事しました。大学進学が大きなキャリアの転機でした。やはり、社外の空気に触れることは大事ですね。大学には、ちょうど3040代の社会人が集まっていました。スーパーゼネコン、大手建設コンサルタント、県庁職員、地場建設会社の次期社長などなど。普段関わることのない人たちばかりでした。そして、講師陣もすごかった。東京大学の建設マネジメントの第一人者の教授や、元国交省キャリア官僚の方、日本銀行の支店長、弁護士などなど。それぞれの立場から土木の世界を俯瞰して、今後の土木はどうあるべきなのかを教わり、学生同士で議論をする。そんな経験を2年間しました。

 

次第に、自分の気持ちも、建コン業界や会社を今より少しでも良くしたい、そのために貢献したいと思うようになってきました。そして、本社に異動させてくださいと社長に直談判しました。エンジニアとしてのキャリアを外れることに躊躇はあったと思うんですけど、今、鮮明に思い返すことができないので大した悩みではなかったんでしょうね(笑)。

 

――一般的な建設コンサルタントのキャリアとなると、30代~40代で技術士の資格を取得して、管理技術者になって、技術を積み上げていきマネージャーになることが王道なキャリアパスですよね。その年代にあった伊藤さんは本社でどんな仕事をされていたのでしょうか。

 

伊藤氏:ちょうど管理職に上がったタイミングでして、統括本部という人事担当部署で人材の確保と育成をメインに仕事をしていました。新卒採用やキャリア採用、社内の研修制度をはじめとした育成の体系・仕組みを作っていました。また、ちょうど経営理念やビジョンの刷新時期であり、企業文化の在り方とか、今後の経営戦略はどうあるべきかという議論をしたり、ウェイマネジメントを担当したりしました。

 

当時の上長は取締役で、その上に社長。なんとも贅沢な体制で仕事をしていました。コントロールを受けるのがこの二人だけだったし、取締役がめちゃくちゃ忙しい人だったので、僕はいつも社長とマンツーマンで、会社の在り方について議論し、その結果を全社展開する資料として取りまとめていたんです。で、その後は取締役に責任をとってもらう、という感じでした(笑)。会社トップの社長の考えや覚悟を深く知ることができて、すごく良い経験をさせてもらいました。

 

本社での仕事を3年くらい経験した後くらいだったと思いますけど、その頃から徐々に次のキャリアについて考えていました。というよりも、今の立場ではこれ以上大きく成長できないと薄々感じていたのかもしれません。その頃から毎年考課の時期に異動したいことを申し出ていました。3年くらい言いましたかね、そしてグループ会社への出向の話があることをキャッチして、「行きます!」と即決しました。ずっと同じ立場にいたら、社長を超えるような新しいアイデアが出てこないような感覚もありましたし。出向したのが40歳の時でしたね。

 

――今の出向先である株式会社エイテック(以下、エイテック)ではどのような仕事をされているのでしょうか。

 

伊藤氏:エイテックでの役職は経営企画リーダーです。採用や育成等の人事戦略もやりますし、中長期の経営戦略、事業戦略をつくり、それをどう行動に落とし込んでいくか、PDCAサイクルの運用方法も検討し、実践まで主導しています。

 

――伊藤さんのキャリアの節目には必ず「ご自身の意向」があるんですね。

 

伊藤氏:こうして振り返ってみると、大学進学も本社異動もグループ会社出向も、自分で決断をさせてもらっていますね。本当にタイミングが良いというか、チャンスを与えてもらって有難いというか。そして、自分で決断できているからこそ、仕事に対してのモチベーションが高く、不満もあまりないんですよね。自分で選んでいる道だから。


■目指し、大切にしていること



――今後、どのようなキャリアパスを考えてらっしゃいますか。


伊藤氏何になりたいって話はあまり本質的じゃないなって思っています。たとえば経営者になりたいとか、社内で事業を立ち上げてイントレプレナーになりたいとか、そこはゴールじゃなくて、手段みたいな感じがしているんですよ。今は、何になりたいかというよりかは、どうありたいかとか、どんな世界、社会を実現したいかという方が本質的な問いのような気がしています。僕自身、関わってくれる周りの人たちの世界や価値観、選択肢、可能性を広げられる、そんな影響を与えられる人でありたい。だから、自分が率先して建コンの中で知られていない世界を誰よりも早く観に行ったり、体験したりしないといけない。常に成長環境に身を置いていないと、良い影響を与えられる存在にはなれないと思っている。そのゴールに向かって行動していく中で、結果として経営者になるとか、事業を立ち上げるとかの手段が付いてくるんだろうなと。

 

あと、誰から与えられるわけでもなく、自らいいなと思う道を選択して自走する人が増えたら、みんなの人生や働き方が幸せになるんじゃないか、っていう感覚が実体験としてあって。いわゆるウェルビーイングですね。そういう幸せな生き方・働き方をする人が増えると、会社としても強くなれるし、もっと言えば社会全体が強くなれるはずです。そんな社会を実現できたらいいなと思っています。そして、小さくてもよいので、そのきっかけを与えられる存在になりたいと思うんですよね。


■建コン業界の行方



――建コンの仕事について今後どのように変化すると思われますか。

 

伊藤氏:建コン全体の話だと、海外という選択肢は当然あるけど、国内でも今までみたいに社会資本整備に関わる計画・調査・設計・管理という建設一辺倒ではなく、プラスアルファの事業をどんどん生み出していく流れが実際にある。たとえば、従来の建コンは企画提案するだけが役割だった。だけど、新たな動きとしては、その企画提案をもとに、企業自らが資金を投じてプロジェクトを実装し、運営するといった自主事業の役割まで踏み込んでいます。社会のニーズはそこまでを期待している現れだと思っています。

 

――建コンの仕事が変化することで、その業界で働くエンジニアはどう変わればよいのでしょうか。

 

伊藤氏:事業の多角化を成立させるためには、コンサルタントのキャリアの面でも、これまでどおり技術士を取って管理技術者になるという単線的なキャリアだけでは立ち行かなくなると思っています。イントレプレナーやフリーランス、副業など、複線的なキャリアパスを用意していかないとダイバーシティは生まれない。だからこそ、積極的に個人がそうした選択ができて会社としても認めていく風潮を作りたいと思っています。

 

もう少しいえば、先日のONEドボクの話にもあるけど(スペシャル記事『「土木業界を面白くしていく」ために必要なことは?』参照)、職種的に越境して非効率な実態を解決できる人たちは、当然市場価値が高い。実際、現場としての需要もある。たとえば、i-Constructionを推進したことで、測量と設計との間に歪がある。3Dデータの受け渡しはどうすればいいかという点で、双方の言い分にギャップがある。そこを理解できるCIMマネージャーと言われるような人が多くなれば、円滑に業務を進められる。そんな測量会社、設計コンサルタント、ゼネコン、公務員、ディベロッパー、メーカーのような職種間の壁を越境するようなキャリアパスを業界のビジョンとして出していければ、新しい志向の転職者も出てくるんじゃないかと考えていて、今人材業界の会社と一緒に取り組んでいるところです。


■何を積み重ねるか



――情報が溢れている昨今、自身のキャリアをどう考えていけばよいか迷っている人が多くいると思います。伊藤さんから何かアドバイスはありますか。

 

伊藤氏:アドバイスなんておこがましいですよ(笑)。ただ、自分のキャリアを考えるときに常に念頭に置いていることがあります。僕自身、管理技術者になり部長になり拠点長になるというような、いわゆる建コン企業の多くに当てはまる王道のキャリアからは完全に外れてます。それをめちゃくちゃ意識し、自覚もし、自分の中で受け入れています。決して卑下しているわけではないですよ(笑)。その現実を受け入れた上で、この業界の王道のキャリアを歩む人にはない自分の強み、差別化ポイントがどこなのかを強烈に意識しています。それを意識しないと、この業界における自身の存在価値がないと思っています。そして、その存在価値は、社外や業界外に積極的に飛び出し、新たな価値観に触れることで、初めて自分を客観視でき、自分の価値を認識するのだと思います。

 

――会社の外に飛び出すことに対して、会社としては複雑な心境でしょうね。

 

伊藤氏:社員に対して社外の景色を見せることはすごくリスキーなことだと捉える経営者も多いと思います。隣の芝が青く見えて、転職されるということもあるでしょうし。だから、社員を囲い込んだり、社外活動を制限したりするんだと思います。だけど、それはもう時代的にムリですよね。良い悪いじゃなくて、ムリ。どれだけ規制しても、だれもがどこでも情報を得られる時代ですからね。それに、会社を守るために社員を囲い込むって、順番が逆ですよね。そうではなくて、社員が幸せに働けば、生産性だって上がり、会社を成長させることになる。そう考えると、社員が色んな景色を見た上で、やっぱりこの会社がいいって選んでもらうことを目指すべきだと思います。

 

経営者からは「お前、そう言うのは簡単だけどな」って絶対言わると思いますけどね(笑)。

 

――そう考えると、新しいキャリアを見据えるためには外の世界を見てネットワークを築くことが大切になってくるかもしれませんね。

 

伊藤氏:自分以外、会社以外、業界外の人たち、価値観に触れることで、初めて自分を比較級で語ることができ、自分のどこが強みでどこが弱みかを理解することができる。さらに、価値観が違う人たちと交流すると、「なにをやりたいの?」という自分の“WILL”を聞かれることが多い。それこそが、キャリアを考えるど真ん中の問いだと思うんです。社内では、「どうやってやるの?」という“HOW”ばかりでなかなか自分の“WILL”に向き合う機会が少ない。そういう意味で、外の世界を見ることが大切だと実感しています。

繰り返しになりますけれど、結局のところ、自分が幸せな生き方・働き方をしていくためには、誰から言われるでなく、自分のやりたいこと=“WILL”に向き合い、自分で決断し、自走することが大切なんです。そう思うようになったのも、何よりこれまで自分自身が歩んできたキャリアが、自分の決断の上に成り立っていて、かつ今、幸せだと感じている経験があるからこそなんです。



伊藤 昌明(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)

建設コンサルタンツ協会 「若手の会」代表。10~20年後に建コン業界を魅力的な業界にするために、若手にも業界の未来を語る場所が必要だと考え、「若手の会」を設立し、企業の括りを超えた活動を展開。「若手の会」が、リクルート「Good Action Award 2017」を受賞。

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