私はいくつかの現場で施工管理やCADオペレーター、土木工務、設計支援などを経験してきました。その中で、大規模なシールドトンネルの準備工事において、施工計画支援や設計支援を行っているときに、杭打機が転倒してしまうという事故に遭遇してしまいました。
位置図
画像:NEXCO東日本
その現場は、長さ約4km、直径が約15mもあるシールドトンネル工事と、シールドマシンの現地組み立てや発進基地となる立坑の構築現場でした。現場自体はシールドトンネルの現場と立坑構築の現場とで別組織として工事を遂行していましたが、JV(共同企業体)の幹事会社がどちらも同じゼネコンであり、2つの現場でありながら1つの事務所に近い形となっていました。
私はシールドトンネル工事現場の担当として赴任していましたが、立坑構築の現場のお手伝いをすることもあり、工事内容についてはなんとなくですが頭に入っていました。
立坑はシールドマシンの組み立て基地となるため、トンネル工事に先駆けて着手し、当初は順調に工事が進んでいました。場所は関越自動車道の大泉JCTのすぐ近くで、ちょっとでも事故があると高速道路が通行止めとなる可能性があることから、慎重に工事を進めていました。そんな中で、杭打機が転倒してしまったのです。
その日、私は休日だったため自宅でテレビを見ていましたが、ニュースで報道された光景を見て驚きました。私が勤務している現場で、杭打機が転倒している映像が流れてきたからです。杭打ち機がランプを塞ぐように横たわっており、その近くには通行しようとしていた一般車が列をなして止まっていました。「これはエライことになった・・・」と思うのと同時に、これからしばらくは土日もなく対策を考えて図面を起こしたり、計画書を作ったりすることになりそうだ・・・と思ったものです。案の定、私はその現場のお手伝いに駆り出されることとなりました。メインはシールド工事の担当なのでずっと手伝いをしていたわけではありませんが、時折土曜日などに立坑の現場事務所に赴いて重機の配置検討などをしていました。
転倒イメージ図
画像:NEXCO東日本
なぜこんなことが起きてしまったのか。原因は地盤改良が不十分な箇所があったことでした。杭打機はかなり重量が大きく、敷鉄板を設置しても地盤が沈下し危険です。そのため、杭打機を現場に搬入する前に地盤改良を行い、地盤を強化していました。しかし、地盤改良が十分になされていなかったところが、ほんのわずかな範囲あったのです。その後の調査で、その部分は周辺とは明らかに異なる弱い地質となっており、異物も混入していたことが判りました。
発見された異物
画像:NEXCO東日本
敷鉄板は設置していたものの、その弱い箇所に杭打機が乗ってしまったため、鉄板が折れ曲がって地盤内にめり込んでしまい、杭打機が転倒してしまったのです。
今後こういった事故が発生しないためには、どういったことが必要になるのでしょうか。まずは現地をしっかり確認し、リスクとなりうる事項の洗い出しが必要です。
今回の件であれば、大きな機械を使用するため、弱い地質となっている箇所がないか、地盤改良を行うのであれば必要な範囲をすべて改良できているかを発注者とともに確認することが求められます。そして、平板載荷試験等の地盤の強度を測定できる試験を確実に実施し、結果を吟味することが必要です。そして、調査した結果や試験を実施した結果を記録しておき、仮に問題や事故があった際には、前もって対策を行っているという証拠を残しておくことも大事になります。
土木工事は自然相手の仕事です。万全の準備をしていたとしても、不測の事態は起こるかわかりませんし、何が起きてもおかしくありません。だからこそ、考えられるリスクはすべて洗い出しておき、芽を摘んでおくことが求められるのです。
幸いなことに、この事故による死傷者や負傷者は出ませんでした。一般車の1台が、ほんの少し傷がついただけで済んだのです。あれだけの事故でありながら、これは不幸中の幸いでした。死傷者が出ていたら最悪工事は長期中止、現場所長や会社の管理職は刑事罰で逮捕・書類送検といったことになっていた可能性があります。
この事故を通し、ちょっとした油断が大きな事故につながるということを肌身で感じることができました。事故は起こさないことが一番です。しかし、事故を通して学べることがあるし、なかなか経験できないことを経験できる場でもあります。一つ一つの工事や業務を、確実に実施することの重要性を実感した現場でした。
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