国土交通省によると、建設業の従事者は年々減少傾向が続き、平成27年時点では全国で500万人となっています。その約34%が55歳以上の高齢者で、残り数年で大半が引退する見込みとなっています。経験豊富な職人達が引退することで、日本の高い職人技術が失われてしまうという懸念が生じています。
そこで、近年では、情報技術を駆使した「建設ICT」を導入することにより、高精度かつ高効率な作業を実現し、人員不足の解消が図られています。しかし、職人技術が全てICTで代替できるわけではないと考えます。今回は、発注者・元請け、下請けのそれぞれの立場からICTで代替できる職人技術、できない職人技術について解説していきます。
施工管理の立場としてICT化により大きな恩恵を受けるのが、データのクラウド管理です。デバイスやアプリを用いて資料の共有や整理ができることで、これまで煩雑になっていた書類作成業務の効率が格段に上がります。
基本的にはICT化により業務効率が格段に向上し、人手不足の課題解消へ繋がりますが、技術開発が進んでも、代替えできない職人技術はあります。その一つが、現場環境を踏まえた設計・施工思想です。景観保護を考慮した建物や区画整理を見越した道路整備、近隣住民に配慮した施工方法の策定など、クリエイティブな発想力は人でしか発揮できない力だと思います。
実作業を行う立場としては、作業そのものが機械に代替えできると考えられます。ドローンを用いた測量やバックホウなどの建設重機の自動操縦といった基本手順をシステムに組み込むことで、人の手を使わずに作業が行えます。また、現場状況の把握や技術継承のための教育も、VRやARを活用することで現場へ行かずとも代替が可能です。
作業そのものが機械により代替可能となりますが、異常時など予期せぬ事態が発生した際には職人技術でしか対応できないと考えます。例えば、施工中に埋設物などの支障物が発生した時の施工位置の微修正や台風・地震の異常気象が発生し被害が出た際の応急対応はICTに頼っている余裕はないと思います。更に、監督側からの施工における詳細な要望や工法の変更・修正に対しても職人技術があってからこそ対応できる事例かと思います。
私自身、実際に仕事をしていている中でもICT化を感じる部分が多くなってきました。例えば施工管理においては、クラウドシステムが充実し、格段に効率化が図られています。工事の成果物等のデータ作成や確認はタブレット一つで行うことができ、これは発注側と請負側双方で同様のサービスを共有している為、以前までの“紙”での管理に比べ、追加修正時の手戻りに費やす手間が少なくなります。また、構造物の検査・診断についてもタブレットを活用して、診断指標を参照することやGISによる位置情報を入力でき、検査記録を現地で作成することができます。更には、試行段階ではありますが、構造物における既変状などを構造物自体に投影し、着目箇所を重点的に把握する取組みなども進んでいます。今後もICTにより、更なる業務改善が見込まれると考えています。
建設業界における人手不足解決の一つとして注目される建設ICT。高度な情報技術を駆使することで、これまでの建設業界の大変というイメージが一変すると考えられます。また、ICTによって業務の効率化が進み、人手不足の解消だけでなく、嵩む建設コストの削減にも期待が高まると思います。一方で、ICT化が進む中でも、これまで培われてきた職人技術の全てが代替できるわけではありません。職人技術とICT技術の共存により、建設業界の未来は明るく、より発展していくと考えます。
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