【スペシャル記事】「土木業界を面白くしていく」ために必要なことは?

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『サガシバ』編集部 [著/写/編] / 佐々木 理弦(八千代エンジニヤリング株式会社) [監修・編纂]



今回は、『サガシバ』の全国リリースを記念して、匠の野帳スペシャル記事を掲載!

土木業界で注目を集める、一般社団法人 建設コンサルタンツ協会(JCCA)「業界展望を考える若手技術者の会(通称:「若手の会」)」の方々に、『サガシバ』編集部がインタビューを行いました!

「若手の会」は、“業界活性化のための一大ムーブメントを興す”ことをミッションに、建設コンサルタント業界の競合企業同士という枠を超えて、若手有志が集い結成した団体です。

2015年の本格始動以降、業界のしがらみに囚われない風雲児ともいえる様々な活動(例えば、同職種のハードな労働環境を率直に伝える本音ベースの採用イベントや、ミュージシャンとコラボしてテーマソングを作成、などなど……)を行っています。

そしてその動向は、業界の刷新を進める一つのケーススタディとして、異なる業界でも注目を集めつつあります。

今回は、そんな「若手の会」の以下の皆様(+編集部)で、「土木業界を面白くしていくには?」という無茶ぶり(笑)なテーマの下、ディスカッションした内容についてお伝えします。

 

【取材にご協力いただいた皆様(敬称略)】

・株式会社オリエンタルコンサルタンツ 伊藤 昌明

・株式会社長大 青柳 竜二

・株式会社オリエンタルコンサルタンツ 今野 愛美

・八千代エンジニヤリング株式会社 佐々木 理弦



■ 「若手の会」の設立について



――まずは「若手の会」について、ご紹介いただけますか。


伊藤:元々僕は、建設コンサルタンツ協会の総務委員をやっていたのですが、委員会では10~20年後の建コン業界を魅力的にするためにはどうすればいいのかを、真剣に考えていました。

とはいうものの、委員は各社の経営層の方ばかりでしたが、実際に10~20年後に業界の主役となるのは我々若手世代のはず。そういった意味で、若手にも業界の未来を語る場所が必要だと思いまして、「若手の会」を設立しました

初めは批判的な意見も多かったのですが、リクルートの「Good Action Award 2017」の受賞や、企業という枠組みを超えた、業界としての取り組みであることが後押しして、今では業界を引っ張るようなポジションを任されるようになってきています。


 ■ 建設コンサルタント業務の面白さ



――なるほど。そんな皆様に色々とお伺いしたいと思います。今回のテーマは「土木を面白くしていく」ために必要なことは何か、なのですが、建設コンサルタントから見た「土木の面白さ」をお聞かせいただけますか。

 

今野:今までのコンサルタントって、いろいろ提案はするけどリスクは取らない、といわれることが多かったのですが、最近は提案内容に自分たちの資産を投じて事業化するところまでやったりしています。

現在私が携わる観光事業はまさに、そうやって今までのコンサルタントではやらなかった範囲に進出していって、地元の信頼を得ていく、チャレンジするような内容なので、携わっている立場としても面白いと思っています。


青柳:チャレンジできるのっていいですよね。

橋の設計は、基準書があって、ある程度の「型」があります。なので、誰がやっても同じ結果、いわゆる正解があるのですが、そこに少し悶々としています。

誰がやっても同じではなくて、自分にしかできないというのがコンサルタントの面白いところなのかなあと思います。

 

今野:そうだよね。「あなたじゃないとできない」みたいな部分がないと、面白くないかもしれない。

 

青柳:働き方改革や生産性の向上や効率化みたいな話ばかり進められがちですが、本当にそれでいいのだろうかと思っています。仕事が早く終わってよかったね、だけだと技術は衰退していく一方な気がしてしまって。


佐々木:設計の分野だと、特にそう感じるかもしれませんね。基準書があって答えもあるなら、効率化できそうな感じがします。

ただ、私の仕事でもある地質調査の場合は、そもそも効率化はすごく難しいな、と。様々な調査を行い、得られた結果を整理して、事業を円滑に進めていくために必要な内容を選択し、分かりやすく伝えるのが仕事なわけで。

見えないものを相手にしているからこそ、見える情報の中から最大限伝えるべきことを選んで効率化することは本当に難しい。でも、それが仕事の中で一番面白いところだと思います。

 

伊藤:設計は、やはりマニュアルやルールがあって、それに則って進めているよね。楽だけれど、淡々とこなしていくだけだし、つまらないかもしれない。

答えがないところに足を踏み入れて、答えを出すのがコンサルタントの面白さなのかもしれないね。

 

青柳:そういう意味ではルールを作るというのも面白かったですね。ただ、そういった仕事は、効率化は本当に難しい。将来絶対に役に立つ内容ではありますが、管理者との意見交換、そのための説明資料作成など、残業は増える一方で、ジレンマを感じましたね。

 

佐々木:マニュアルはあくまで原則であって、すべての現場や事業に適用できるルールを作るのは本当に難しいと思います。

一方現場は、マニュアルには当てはまらないことが本当に多くて。どういう考え方に基づいてマニュアルができたのか、その行間を読み解く場面が結構ありました。そういう仕事って、やっぱりコンサルタント特有の面白さがあるなと思いますね。

 

青柳:設計でも、現在のマニュアルには載っていない内容を、昔の資料や基準から紐解いて説明するときは、やっぱりこれがコンサルタントの面白さだなって思いますね。


■ 土木を面白くしていくために必要なこと



――コンサルタントの面白さは、答えがない新しいものにチャレンジしていくことにあるのですね。

では、「土木」という一つの大きな括りで見たときに、業界を面白くしていくのに必要なことは何だと思われますか。

 

伊藤:最近開催したイベントに来てくれた学生の言葉が印象的で、今でも覚えています。「自分のキャリアの中で、公務員もゼネコンもコンサルも経験してみたい」「どの職種もそれぞれやりがいがあって面白そう」そういわれてハッとしました。「ONEドボク」なんだって。

 

――ぜひ、詳しくお聞きかせください。

 

伊藤:土木業界って、発注者、ゼネコン、建設コンサルタントなどなど役割が細かく分けられている一方で、それぞれの関わり合いってほぼないんですよね。お互いどんな思いで仕事をしているかとか、どうしてもらいたいのか、そういうことを知る機会って本当に少ないと思います。そういうところで仕事が非効率になっているような気がしていて。

最近はi-Constructionやデザインビルドなどの流れも大きくなってきているし、今後は各職種の役割をよく理解した、職種という枠組みを越えた人材の市場価値が高まると思っています。

一つの社会インフラに関わっているのに、職種間で対立していては、生産性なんて高まらないですよね。「ONEドボク」で取り組んでいかないと土木を面白くすることも、難しくなっていくと思います。そういった環境の中でも、若手は今までのそういったしがらみが大きくないので、各職種の間でつながりを持つことが、土木を面白くしていくのには大事なんだと思います。

 

――本日お話いただいた、建設コンサルタントの面白さは、公務員やゼネコンのような他の職種にもありそうですね。今回のディスカッションを通じて、我々の持っていた建設コンサルタントのイメージも大きく変わりました。

 

伊藤:公務員やゼネコン、コンサルの間で気軽に情報交換できるつながりがあれば、もっともっと土木は面白くしていけると思います。そんな雰囲気を土木業界全体に広げていきたいですね。


■ 「若手の会」のこれから



――施工の立場から見ても、面白くなりそうな予感がします。そういった考えがコミュニティや業界の様々な分野に影響を与えていきそうですね。このディスカッションもつながりの1つだと思います。

最後に、これからの「若手の会」の活動について、お聞かせください。

 

伊藤:「若手の会」は2015年に設立したのですが、最初の約2年間は、業界全体に対して「問題提起」をしたフェーズでした。我々がこうありたいというビジョンを提示し、アンケート調査で若手のシゴト観を明らかにしました。

ただ、「問題提起」だけでは現状は何も変わらない。だから、次のフェーズとして今取り組んでいるのは、業界を構成する会社を、実際に変えるアクションを学んでいくことです。

 

――「問題提起」から「社会実装」と、着実にムーブメントを巻き起こしつつありますね。最終的な目標はお持ちでしょうか。

 

伊藤個人的には、目標はないですね。ないというか、設定しても意味がないなと思っています。仮に設定したとしても、いろいろな人と話して意見交換する中で、きっとどんどん変わっていってしまいますからね。

目の前の課題に真面目に面白く取り組む、結果としてその先に見えてきたものにまた全力を注ぐ、そうやって一生懸命走り続けるのが大事だと思っています。

もちろん、「若手の会で業界活性化の一大ムーブメントを起こす」という軸はしっかり持った上で、ですけれど。

ゼロからイチを作っていく、インフルエンサーであり続けること、特にアクションを起こすことにはこだわっています。

 

――「若手の会」の活動からは今後も目が離せませんね。これからも土木業界を一緒に盛り上げていきましょう。ありがとうございました。



(以下、「若手の会」メンバーの紹介)


伊藤 昌明(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)

建設コンサルタンツ協会 「若手の会」代表。10~20年後に建コン業界を魅力的な業界にするために、若手にも業界の未来を語る場所が必要だと考え、「若手の会」を設立し、企業の括りを超えた活動を展開。「若手の会」が、リクルート「Good Action Award 2017」を受賞。


青柳 竜二(株式会社長大)

橋梁の設計を担当。工事と設計が同時に進む橋梁の大規模更新プロジェクトにも携わる。新設橋梁の設計や特殊橋梁の補修・補強、設計基準の改定なども経験。橋梁点検をしていたときには、スズメバチの巣の対応もしたことも。

 

今野 愛美(株式会社オリエンタルコンサルタンツ)

都市計画や交通計画を担当。縁あって花屋から建コン業界に転職。チャレンジできる環境に魅力を感じ、会社の新規事業でもある観光事業においても、ツアー企画や実際のツアーの添乗員として活躍。

 

佐々木 理弦(八千代エンジニヤリング株式会社)

地質や地下水の調査を担当。地質露頭の調査や沢水の流量観測をはじめ、自然由来重金属の対応や自治体の水資源管理にも携わる。シミュレーションと実現象のギャップや現場で起こっている自然現象を分かりやすく伝えることに邁進。

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