9月は「防災月間」です。また、毎年9月1日は「防災の日」と定められています。「防災の日」は大正12年9月1日に発生した関東大震災にちなんだもので、震災の教訓を忘れないという意味とこの時期に多い台風への心構えをという意味から、昭和35年に制定されました。また、9月1日の前後である8月30日~9月5日を「防災週間」として、防災訓練などが各地で行われます。災害の多い日本に住んでいる私達において、過去の災害を教訓にして災害を未然に防ぐことや、被害を軽減できるように準備をすることはとても重要なことです。
今回は私が自身の教訓として残している災害経験をご紹介させていただきます。
土木技術職の公務員として働いていたころの話です。私の住む地域で、震度7の地震が起こりました。担当した現場の一つに学校敷地のブロック積擁壁が被災した現場がありました。擁壁の上は学校の運動場、擁壁の下は幅員4mほどの道路でした。道路の延長は120mほどで、坂道になっているため、路面からの擁壁高は2m~5mでした。擁壁の被災状況としてはブロックのひび割れが見受けられ、はらみが1部見受けられる箇所がありました。擁壁天端際には運動場の排水のための側溝が設置されており、地震の揺れにより破損状況が激しい箇所も上流側でありました。
復旧方法として、全区間のブロック積み擁壁の再構築と側溝の復旧を計画しました。しかし、復旧工事に着工するためには災害査定を受け、予算枠を確保しなければなりません。災害査定も簡略化されてきているとはいえ時間を要します。崩壊した箇所の応急復旧など、日常生活を回復させる緊急工事を優先していたので、災害発生時期は4月中旬でしたが、本箇所の工事着工は梅雨明け後が想定されました。そのため、「被災した状況で養生しながら、梅雨越えをする」ということが課題になりました。
上部の敷地の運動場には水みちができており、損傷の激しかった側溝の方に向かっていました。運動場に降った雨水がそこへ流れ込むと擁壁背面に水が流入し危険なため、仮対策として比較的健全な側溝へ導水するように土嚢を積み、ブルシート養生を行いました。
平面図イメージ
仮対策後は、降雨時には定期的に観察し、時間雨量20mmを超えるような時でも良好に対策効果が発揮されていることを確認していました。しかし、対策むなしく擁壁が崩壊してしまったのは、予定通り測量に入り、順調に進んでいると思い始めた梅雨の中頃のことでした。 前後の時間はあまり激しい雨は降っていなかったのですが、夜11時過ぎから12時過ぎの1時間程度で100mm程の大雨が降ったのです。崩壊したのは側溝の損傷が激しかった約15m区間でした。想定以上の雨水が隙間などから流れ込み、擁壁の背面に流入し崩壊させたのでした。
横断図イメージ
崩壊に伴って、土砂やコンクリート塊が擁壁下の道路を塞いでいました。元々、人通りは多くない道で、時間帯も深夜帯であったため、通行人はおらず、2次被害が起こらなかったことが何よりでした。
次の日の朝から本格的に崩壊土砂などの撤去を行い、交通開放をしました。また、擁壁が崩壊したため、さらに雨水で法面が侵食されないようシート養生と、コルゲート管を一部に設置し道路側溝へ繋ぎました。このことにより崩壊箇所の大雨時の対策はもちろん、本工事における擁壁復旧時の一時撤去期間などにも仮排水箇所として利用でき、なんとか復旧を行うことができました。
今回、ご紹介したケースでは私の当初対応で何らかの措置を行っていれば再災害は起こらず済んだと感じています。この災害経験から私が教訓としていることは3点です。
今回は短時間に想像を超える激しい雨が降りました。台風などにおいても「今回は大丈夫」、「こっちの地域は大丈夫」といった気持ちが命取りです。
対策が十分か心配だったため定期的に観察を行っていました。観察が不要というわけではありませんが、不安点があったのであれば、やはり初期の段階で対応しておくべきでした。災害が起こってからでは遅いです。
今回は様々な要因が重なって擁壁が崩壊しました。点検業務等において、対象物そのものだけでなく、それらを取り巻くものから起こりうる崩壊形態や、損傷の可能性を想像することが災害を未然に防ぐうえで非常に重要だと思います。
私が自身の教訓として残している災害経験のご紹介については以上です。
少しでも災害対応時の参考にしていただければ幸いです。最後まで読んでいただきありがとうございました。
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