土木作業員の日常

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朝礼は7時15分からと決まっていた。会社の朝礼がある日はゆっくりと出社できる。これが普通の日だと7時前に必ず誰かから電話がくる。

「起きましたか?」

「今どこ?」

昭和30年位に生まれた世代はとにかく朝が早い。というより早起きすることが当たり前で、朝遅いのはそれだけで減点である。ところが6時前後に出社して何かしているのかというと何もしていないのだ。道具置き場兼駐車場で車座に置かれたパイプ椅子に座って話し込んでいるだけである。内容はもっぱら新入りの力量を勝手に査定することくらいだ。

「おはようございます。○○さんは4トンダンプで砕石積んで、××さんはダブルピックでリース屋に寄ってね・・・あー電話してあるから」

その日の段取りを伝えるとバタバタとした一日がディーゼルエンジンの低い唸り声とともにスタートする。

“段取り八分”という言葉は正解だと思う。見積りや積算で工種ごとの単価が計算されているが、私はこれまで「普通作業員」などという人種に出会ったことがない。目の前にいるのは60歳成りたての××さんと40代の若手代表○○さんである。実行予算はとりあえず「普通作業員」で組んだとしても「人工」も「普通作業員」も机上の空論である以上、“段取り”と“工程”が工事を進めるうえでの肝になってくる。

では“実工程”はどのようにして組むべきだろうか。私は月予定表付きのホワイトボード上で全員参加の上で行っている。まず、たたき台として私が机上の空論を水性マジックで書きなぐり、皆の意見を取り入れて修正していく。そこでは○○さんも××さんも自分の力量等を考慮しながら意見を言うだろうし、そこに甘えが見えたとしたら私がやんわりと修正していく。

そういったやり取りの中で工事の目地みたいなものが見える時がある。「ということは、来週中に3段目まで積み終われば今月の工程はめどが立つな。」これは全員の共通目標となるのでわかりやすいし、モチベーションアップにもなる。私は大切な瞬間だと思っている。

寒い日もあれば、暑い日もある。当然雨も降るだろう。“工程表”はたいていうまくいかない。ただずるずると工程がずれていくのはだらしないと思う。月予定表に工事の目地というか区切りがあれば、そこは何かと話しやすい。「安全」と「無理」は両立しないが、「目標」と「踏ん張り」は支えあえるかもしれない。

公共工事では「施工計画書」が必須である。そこに収める「計画工程表」を作成しているときに気が付かなかったことは「ホワイトボード御前会議」で言い合えば良い。

私が工程に見合った“段取り”をしっかりと組めば○○さんも××さんもしっかりと動いてくれる。なぜならその“段取り”は彼らが参加した工程表の目地に向かっているからだ。言い訳に聞こえるかもしれないが、私は朝の車座井戸端会議には決して参加しない。本当は私も中堅50代後半なので5時半には起きているのだ。井戸端会議でうわさ話に参加しないことが私の力量だと思っている。

「早起きできないね。何時に寝てる?」

「プライバシーの話はしませんよ。」

新入り監督としてうわさされることは私の役目なのかもしれない。

この記事のライター
鹿児島県生まれ。大学では地域研究を専攻。
塾講師・海運業(離島航路)を経て、地元の土木会社に勤務。公共工事、民間工事の主任技術者、職長として現場で汗を流しながら、事務所では見積り、積算もやっております。
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